モスリン

モスリン：多様な文化が織りなす布の物語

モスリンは、薄く柔らかな織物として、世界中で親しまれてきました。その起源は古く、名前の由来はメソポタミアのモースルという説や、フランス語のムース（泡）に由来するという説など、諸説あります。しかし、現在のモスリンの理解には、ヨーロッパと日本における歴史的経緯を理解することが不可欠です。

欧米におけるモスリン：綿[[織物]]の変遷

17世紀、イギリスやオランダ東インド会社によってインド亜大陸からヨーロッパに持ち込まれた白い綿[[織物]]は、その柔らかさから「ムスリン」や「モスリン」と呼ばれるようになりました。当初はペチコートやエプロンなどの下着類に使用されていましたが、18世紀後半には、ルソー思想の影響もあり、子供服にも使用されるようになりました。さらに、1770年代頃からは、田園風の白いモスリンのシュミーズドレスが流行し、新古典主義ドレスへと発展しました。この流行は1825年頃には終息しましたが、その後も若い女性や子供の服地として人気を保ちました。20世紀初頭には綿製ドレスの再流行とともに、モスリンやそれに類似したモール、ネーンスック、オーガンジーなどが再び脚光を浴びることとなります。

日本におけるモスリン：毛[[織物]]との出会い

日本には近世以降、オランダやポルトガルの貿易船を通じて様々な織物が輸入されてきました。その中には、毛[[織物]]があり、ゴロフクレン、ゴロ、フクレンなどの名称で呼ばれ、唐縮緬とも呼ばれていました。明治時代に入ると、メリノ種の羊毛を使った柔らかい薄手の毛[[織物]]が「メリンス」として大量に輸入されるようになり、次第に「モスリン」と混同されるようになりました。明治時代後半には、この毛[[織物]]を「モスリン」と呼ぶのが一般的になり、「毛斯綸」と表記されることもありました。

綿[[織物]]のモスリンが輸入されるようになったのは1920年代頃からで、それ以降は毛[[織物]]のモスリンを「本モスリン」、綿[[織物]]のモスリンを「綿モスリン」または「新モスリン」と区別して呼ぶようになりました。シフォンを「絹モスリン」と呼ぶこともありました。

日本の毛[[織物]]としてのモスリン（メリンス）は、薄くて柔らかく暖かい素材として重宝され、普段着の和服や冬物の襦袢、半纏、軍服など幅広く使われました。友禅を施した友禅メリンスも人気がありました。明治29年の関税撤廃を機に、松本重太郎の毛斯綸紡績や東京モスリン紡織などの企業が設立され、日本の毛[[織物]]生産の中心となりました。日本毛織もモスリン製造に乗り出し、業界最大手となりました。しかし、太平洋戦争による原毛輸入の困難や繊維製品の使用制限により、モスリン製造業は縮小を余儀なくされました。戦後は生産量を回復しましたが、合成繊維の登場により、虫害の問題もあり、モスリンの需要は減少しました。現在ではほとんど流通しておらず、一般的に目にする機会は少なくなっています。「新モス」と呼ばれる36センチ[[メートル]]幅のモスリンは、着物の下着や裏地、ふんどしなどに使用されることがあります。

結論：消えゆく伝統と未来への継承

モスリンは、綿[[織物]]としての歴史と、日本においては毛[[織物]]としての歴史を持ち、それぞれの文化圏で異なる意味と用途を持っていました。その歴史と多様な側面は、繊維産業やファッション史において重要な位置を占めています。今日、モスリンはかつてほど一般的ではありませんが、その独特の風合いと歴史的価値は、現代においても再評価される余地があると言えるでしょう。伝統的な技法や素材への関心の高まりとともに、モスリンが再び注目される可能性も秘めていると言えるのではないでしょうか。

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