モノメチルヒドラジン

モノメチルヒドラジン (Monomethylhydrazine, MMH)

モノメチルヒドラジン（Monomethylhydrazine, MMH）は、メチルヒドラジンとも呼ばれる有機化合物であり、ヒドラジンから誘導される一連の物質の一つです。化学的には、ヒドラジン分子（N₂H₄）の水素原子の一つがメチル基（CH₃）に置換された構造を持っています。

自然界での存在

この物質は、自然界においても生成することが知られています。特に、毒キノコとして有名なシャグマアミガサタケ（Gyromitra esculenta）に含まれる毒成分であるギロミトリン（Gyromitrin）が、消化過程や調理によって加水分解されることでモノメチルヒドラジンが生成します。これが、シャグマアミガサタケの毒性の主要因となっています。

ロケット燃料としての利用

モノメチルヒドラジンは、ロケットエンジンの推進剤、 specifically as a fuel component,として広く用いられています。その最も重要な特性の一つは、適切な酸化剤（例えば四酸化二窒素 N₂O₄）と混合した際に、外部からの点火なしに自然に燃焼を開始する「自己着火性」（またはハイパーゴリック性）を持つ点です。この自己着火性により、推進剤のバルブを開閉するだけで瞬時にエンジンの始動・停止や推力の調整が可能となります。

この特性は、特に人工衛星や宇宙探査機において非常に有利です。宇宙空間では、エンジンの再着火が頻繁に必要とされる姿勢制御用エンジン（スラスター）や軌道変更用エンジンに利用されます。バルブの開閉だけで精密な推力制御が行えるため、ミッションの要求に応じた複雑な機動が可能になります。例えば、アメリカのスペースシャトル・オービターの軌道操作システム（OMS）や、ヨーロッパのアリアン5ロケットの第2段エンジン「Aestus」などで、MMHが燃料として採用されていました。

危険性

モノメチルヒドラジンは非常に危険性の高い物質です。強い引火性および発火性を持ち、空気中での取り扱いにも細心の注意が必要です。日本では、消防法によって自己反応性物質として危険物第5類に指定されており、貯蔵や運搬には厳格な規制があります。

また、人体に対する毒性も非常に強く、蒸気を吸入したり皮膚に接触したりすると重篤な健康被害を引き起こします。特に、肝臓、腎臓、腸、膀胱などの臓器に障害を与えることが知られています。さらに、国際がん研究機関（IARC）によって発癌性を持つ可能性がある物質としても分類されており、長期的な暴露は癌のリスクを高めることが指摘されています。

取り扱いには専門的な知識と厳重な安全対策が必須であり、漏洩や事故が発生した場合の影響が大きいため、取り扱われる場所は限られています。

関連物質

モノメチルヒドラジンと同様にロケット燃料として使用されるヒドラジン誘導体には、非対称ジメチルヒドラジン（UDMH）などがあります。UDMHもMMHと同様に自己着火性を持ち、エアロジン-50と呼ばれるMMHとUDMHの混合物もロケット燃料として利用されています。

このように、モノメチルヒドラジンは宇宙開発において重要な役割を担う一方で、その強い毒性と危険性から厳重な管理が必要な物質です。

もう一度検索