アリアン

アリアンロケットシリーズ

アリアン（Ariane）は、欧州宇宙機関（ESA）が開発・運用する人工衛星打ち上げ用ロケットのファミリーです。その名称は、ギリシア神話に登場するクレタ島の王女アリアドネのフランス語読みに由来しています。

このシリーズは、ESAの前身である欧州ロケット開発機構（ELDO）が開発したヨーロッパロケットの後継として誕生しました。構成や技術的な特徴から、大きく分けてアリアン1から4までの「第1世代」と、アリアン5以降の「第2世代」に分類されます。

ESAは、最初のアリアン1ロケットの開発を成功させ、1979年12月に初打ち上げを行いました。その後、ペイロード能力を向上させたアリアン2、アリアン3、アリアン4を次々と開発。これらのロケットの打ち上げ業務は、新たに設立された民間企業アリアンスペース社に委託されています。アリアンロケットシリーズは、特に商用衛星打ち上げ市場において極めて高い成功を収めており、世界で最も成功した商用ロケットの一つとされています。打ち上げは、フランス領ギアナにあるフランス国立宇宙センター（CNES）のクールー宇宙センターで行われています。この場所は北緯6度と赤道に近いため、静止軌道への衛星投入に非常に有利な条件を備えています。

アリアン1〜4（第1世代）

アリアン1から4は、いずれも3段式の液体燃料ロケットを基本構造としています。主要な段に使用されるエンジンと燃料は以下の通りです。

第1段: バイキングVエンジンを4基搭載。燃料には非対称ジメチルヒドラジン（UDMH）と四酸化二窒素（N₂O₄）を使用。
第2段: バイキングIVエンジンを搭載。第1段と同じUDMHとN₂O₄を使用。
第3段: HM7-AまたはHM7-Bエンジン（アリアン2以降）を搭載。燃料には液体酸素（LOX）と液体水素（LH₂）を使用。

各型の性能向上は、主にエンジンの推力増強、燃料搭載量の増加、そして固体または液体ブースターの追加によって図られました。

アリアン1: 全長約50m、全質量約207.2トン。静止トランスファ軌道（GTO）への投入能力は約1,850kg。
アリアン2: アリアン1の第1段・第2段の推力と第3段の搭載量を増加。全長約52m、全質量約248.3トン。GTO投入能力は約2,175kg。
アリアン3: アリアン2に固体燃料ブースター（PAP）を追加。GTO投入能力は約2,580kg。
アリアン4: 第1段および第3段の燃料搭載量をさらに増加させ、ペイロードに応じて最大4本の液体ブースター（PAL）または固体ブースターを追加可能なモジュール構造を採用。最も強力なアリアン44L型（液体ブースター4本装備）では、全長約58.4m、全質量約240トン〜470トンとなり、GTO投入能力は約4,947kgに達しました。ペイロードの多様なニーズに対応できる設計により、商用市場での成功を決定づけました。

アリアン5（第2世代）

アリアン5は、アリアン4までとは全く異なる設計思想で新規開発された大型ロケットです。当初は欧州の有人宇宙船計画「エルメス」への使用も想定されていましたが、計画中止に伴い、商用衛星打ち上げに特化する形となりました。その最大の特長は、複数の大型衛星を同時に打ち上げられる高いペイロード能力にあります。

基本構成（アリアン5G）は以下の通りです。

第1段: バルカンエンジンを1基搭載。液体酸素と液体水素を使用。直径5.4m、全長31.6m。打ち上げ時の総質量約710トン。
固体ブースター: P230固体燃料ブースターを2基装備。直径3.1m、全長31.6m。
第2段: エスタスエンジンを搭載。モノメチルヒドラジン（MMH）と四酸化二窒素（N₂O₄）を使用。

アリアン5は1996年6月に最初の試験飛行を行いましたが、これはソフトウェアの不具合により失敗しました。しかし翌1997年10月の試験飛行で成功を収めました。運用初期には失敗や部分的な成功もありましたが、信頼性は向上し、商用打ち上げの主力として多数のミッションを遂行しました。競合するロケットには、アメリカのアトラスV、デルタIV、ファルコン9、ロシアのプロトン、中国の長征3号、日本のH-IIAなどがあります。

アリアン5にはG、G+、GS、ECA、ESといった多数の改良型や派生型が存在し、それぞれGTOまたは低軌道（LEO）への投入能力が異なります。例えば、アリアン5GのGTO投入能力は後に6,200kgまで引き上げられ、アリアン5G+では6,950kg、アリアン5GSでは6,800kgでした。アリアン5 ECA型（Evolution Cryotechnique type A）は、バルカンIIエンジンの改良や第2段の極低温化などにより性能を大幅に向上させ、単一衛星で9.6トン、複数衛星で9.1トンのGTO投入能力を実現しました。アリアン5 ES型（Evolution Storable）は、国際宇宙ステーションへの欧州補給機（ATV）打ち上げ専用として開発され、低軌道へ21トンのペイロードを投入可能でした。

アリアン5 ME（Midlife Evolution）は、アリアン5 ECAとESを置き換えるべく計画された改良型でしたが、費用や後継機アリアン6の開発計画との兼ね合いから、開発着手から2年後の2014年12月に中止されました。

アリアン6

アリアン5の後継機として開発されたのがアリアン6です。第1段にはアリアン5のバルカンIIエンジンの改良型を、第2段にはアリアン5ME向けに開発されていた再着火可能なヴィンチエンジンを搭載する計画でした（最終的な構成は変更されている可能性があります）。補助ロケットはヴェガCロケットと共通化を図ることで、開発・製造コストの低減を目指しました。アリアン6は2024年7月に初めて打ち上げられました。

アリアンロケットシリーズは、欧州の宇宙開発における自立性を支える基盤であり、長年にわたり多くの人工衛星を軌道へ送り出してきました。

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