モバイルギア

NECモバイルギア：日本のPDA史に名を刻んだ名機

NECが1996年から2002年にかけて販売していたPDAシリーズ「モバイルギア(Mobilegear)」は、その優れた機能と高い人気から、日本のモバイル機器の歴史において重要な位置を占めています。愛称は「モバギ」。長時間駆動、高速な起動時間、そして使いやすいキーボードは、多くのユーザーを魅了しました。

モバイルギアの2つの顔：MS-DOSとWindows CE

モバイルギアシリーズは、大きく分けてMS-DOS搭載機とWindows CE搭載機の2種類が存在しました。MS-DOS搭載機は、MC-P/MC-MP/MC-K/MC-MKシリーズとして展開。ビジュアルシェル「UNISHELL」を通じてPDAとして利用可能でした。一方、Windows CE搭載機はMC-CS/MC-Rシリーズとして登場し、より高度な機能を提供しました。両シリーズはしばらくの間並行して販売され、ユーザーの多様なニーズに対応していました。

飛躍的な進化と時代の波：隆盛と終焉

発売当初は大きな成功を収めたモバイルギアですが、携帯電話の高機能化とノートパソコンの小型軽量化という時代の波には逆らえず、販売は徐々に低迷。2000年12月に発売されたMC/R550、MC/R450を最後に後継機種は登場せず、2002年3月をもって生産が終了しました。しかし、その影響はPDA市場にとどまりませんでした。当時日本では「モービル」という表記が一般的だった「Mobile」という語を、「モバイル」という表現に普及させる大きな役割を果たしたのです。

MS-DOS搭載機の深淵：自由度の高い拡張性

MS-DOS搭載機は、Intel 486SX互換カスタムチップを搭載し、PC/AT互換アーキテクチャを採用。単3アルカリ電池2本での駆動と14400bpsモデム内蔵により、当時まだ普及率の高くなかった電子メールの送受信を容易にしました。

特にMC-K/MC-MKシリーズは、640×240ドットの液晶と16.5mmピッチのキーボードを備え、高い操作性を実現。ユーザーによる解析によって、UNISHELLを外して通常のMS-DOSマシンとして使用できる「DOS化」も可能になり、その自由度の高さは多くのユーザーを惹きつけました。さらに、FreeBSDをベースにした「PocketBSD」が開発されるなど、その可能性は無限に広がっていきました。

一方、タッチパネル式のMC-P/MC-MPシリーズは、キーボードを省略したシンプルさが特徴でした。しかし、UNISHELLを停止する手段が無いため、MS-DOSマシンとしての使用は不可能でした。

Windows CE搭載機の多様性：多彩な機種展開

Windows CE搭載機は、モノクロモデルから高解像度のカラー液晶モデルまで、幅広い機種展開が特徴でした。MC-CSシリーズは小型軽量化を追求。ライバル機と比べても高速な動作を誇りました。MC-Rシリーズは、56kbpsモデムやPCカードスロット、CFカードスロット（一部機種を除く）を搭載し、さらに高機能化が進みました。特にMC-R700シリーズは、800×600ドットの大型液晶とUSBホスト機能を備え、当時としては非常に先進的な機種でした。OSはWindows CE 2.0～3.0を搭載し、機種によってCPUやメモリ容量、液晶解像度などが異なっていました。

モバイルギアの遺伝子：派生機種たち

モバイルギアの技術は、NTTドコモ向けモデル「MobileGear for DoCoMo」や、ゼロハリバートンデザインの高級PDA「シグマリオン」シリーズにも受け継がれました。これらの機種は、モバイルギアをベースとしながらも、独自の機能やデザインが追加され、新たな魅力を放っていました。シグマリオンシリーズは、初代、II、IIIと進化を重ね、OSやCPU、液晶、筐体デザインなどが大きく変化していきました。しかし、初代とIIについてはヒンジ部の強度が課題として残りました。

結論：時代を先駆けた革新とユーザーの情熱

モバイルギアは、その革新的な機能と高い拡張性で、多くのユーザーを魅了した名機でした。短命に終わったとは言え、その存在は日本のモバイル機器の歴史に大きな足跡を残し、後に続くモバイルデバイスの進化に多大な影響を与えたことは間違いありません。そして、ユーザーによる独自の改造や開発なども含め、その高い自由度と可能性は、モバイルギアが持つ独特の個性と言えます。

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