モバイル放送

モバイル放送株式会社：衛星デジタル音声放送の挑戦と挫折

モバイル放送株式会社は、日本で移動体向け衛星デジタル音声放送サービスを提供していた企業です。2004年10月のサービス開始から2009年3月のサービス終了までの約5年間、日本の放送業界において独自の道を歩みました。本稿では、その歴史を技術面、事業面両面から詳細に解説します。

設立と衛星打ち上げ

1998年、東芝、トヨタ自動車、富士通といった大手企業9社によって設立されました。設立当初から、東芝が筆頭株主として事業を牽引しました。その後、シャープ、パナソニック、NTTデータといった企業も出資に加わり、最終的には88社もの企業がモバイル放送株式会社を支えました。

事業の基盤となる静止放送衛星MBSatは、韓国のSKテレコムとの共同保有で、2004年にアメリカ合衆国フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。大型衛星MBSatは、Sバンド送信用に開口径12mの大型アンテナを搭載し、高度な技術を誇っていました。

モバHO!サービス開始と苦戦

当初は2004年7月のサービス開始を予定していましたが、受信感度向上のための調整等を経て、10月20日に移動体向け衛星放送サービス「モバHO!」が開始されました。しかし、サービス開始当初から苦戦を強いられました。

最大の要因は、受信端末の普及の遅れと、地上波デジタル放送のワンセグの急速な普及です。ワンセグは携帯電話への搭載が容易であり、モバイル放送の衛星受信端末に比べて利便性が高かったため、ユーザーはワンセグへと流れていきました。

2007年には東芝の連結子会社となり、経営再建を目指しましたが、売上高6億円に対し営業損失112億円という厳しい経営状況を改善することはできませんでした。

サービス終了

2008年7月、NHKがモバイル放送のサービス終了を報じると、同月、モバイル放送は2009年3月末でのサービス終了を発表しました。当初目標としていた150万人から200万人の加入者数は、サービス終了間際には10万人程度にとどまりました。サービス終了に伴い、東芝には約250億円の費用が発生すると見込まれました。

MBSat衛星は、その後も韓国の衛星デジタルマルチメディア放送(S-DMB)で使用されましたが、こちらは2012年8月に終了しています。

技術的側面

モバイル放送が採用した2.6GHz帯衛星デジタル音声放送は、当時としては先進的な技術でしたが、市場のニーズと普及状況を的確に捉えきれなかった点は、事業失敗の一因と言えるでしょう。

受信端末の価格やサイズ、バッテリー消費量なども、ユーザーにとっての障壁になったと考えられます。また、コンテンツの充実度も、ワンセグなどの競合サービスに比べて劣っていた可能性があります。

まとめ

モバイル放送株式会社の挑戦は、技術的には革新的でしたが、市場の動向やユーザーニーズの変化に対応しきれず、最終的にはサービス終了という結果に終わりました。この事例は、技術革新と市場ニーズのバランスの重要性、そして、競合サービスとの差別化の難しさを改めて示すものと言えるでしょう。モバイル放送の失敗は、今後の放送事業において貴重な教訓となるはずです。

関連項目

モバHO!
NOTTV
i-dio
ワンセグ
* 町井徹郎（元社長、日本ラグビーフットボール協会第11代会長）

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