モペットちゃんのおはなし

ビアトリクス・ポターによる珠玉の絵本の一つ、『モペットちゃんのおはなし』（原題：The Story of Miss Moppet）は、1906年に初めて出版されました。ポター作品らしい、愛らしい動物たちを主人公にしたこの物語は、子猫一匹とねずみ一匹の間に起こる、ちょっぴりスリリングでユーモアあふれる出来事を描いています。

物語は、子猫のモペットが暮らす家の戸棚の裏側から始まります。そこに潜んでいたのは、一匹の小さないたずら好きなねずみです。ねずみは戸棚の陰からひょっこり顔を出し、モペットをからかい始めます。ねずみの挑発に乗せられたモペットは、すばしっこい小さな生き物を捕まえようと、勢いよくねずみ目がけて飛びかかります。しかし、ねずみは素早く身をかわし、モペットの攻撃は空を切ります。狙いを外したモペットは、そのままの勢いで硬い戸棚に頭をぶつけてしまいました。

頭を痛めたモペットは、まるで深い傷を負ったかのように見せるためか、近くにあった布切れを頭に巻き付けます。そして、しょんぼりとした様子で暖炉の前に座り込みます。その様子を、先ほどまでいたずらをしていたねずみが、戸棚の上からじっと観察していました。モペットが動かなくなったのを見て、ねずみは警戒心を解いたのか、あるいは単にモペットの様子が気になったのか、戸棚の上からゆっくりと降りてきて、モペットにそっと近づいていきます。

しかし、これは全てモペットが仕掛けた巧妙な罠でした。モペットは頭を抱えて座り込んでいるように見せかけながらも、実は布に偶然開いていた小さな穴から、ねずみの動きをしっかりと見ていたのです。モペットに全く油断していたねずみは、何の疑いもなく彼女のすぐそばまでやって来ます。その瞬間、モペットは素早くねずみを捕まえました。

まんまと捕らえられたねずみを見たモペットは、先ほど自分がからかわれたこと、そして頭をぶつけて痛い思いをしたことへの仕返しとばかりに、意地悪く遊び始めます。モペットは、自分が頭に巻いていたあの布で、捕まえたねずみをぐるぐると丁寧に包み込みます。ねずみが布の中から出られないようにしっかりと包み込むと、モペットはそのねずみを包んだ布の塊を、まるでボールのようにして扱い始めました。床の上で転がしたり、前足でちょいちょいと突いたり、時には空中へ放り上げてみたりと、モペットはねずみで包んだ布ボールを相手に、猫らしく遊びに興じます。

しばらくそうして遊んだ後、モペットはそろそろ良いだろうと思ったのか、布を広げて中にいるねずみを確認しようとしました。しかし、布を広げてみても、そこにねずみの姿はありません。モペットが呆然とする中、ねずみは賢くも、モペットが頭に巻いていた時に利用した、あの布に開いていた小さな穴から、モペットに気づかれないようにそっと抜け出していたのです。そして、ねずみは再び安全な戸棚の上にたどり着き、モペットを見下ろしながら、得意げに軽快なステップで踊ってみせるのでした。

この物語は、獲物を捕まえることにかけては未熟な子猫と、生き延びる術に長けた賢いねずみの対比をユーモラスに描いています。一時はモペットの手に落ちたかのように見えたねずみが、最後の最後で機転を利かせて逃げ出す結末は、読者に意外性と共に爽快感を与えます。ポター特有の細密で魅力的な挿絵と共に、動物たちの生態や性格が生き生きと描き出されており、子供から大人まで楽しめる一冊となっています。

ビアトリクス・ポターの作品群の中でも、短いながらも起承転結がはっきりしており、特にねずみの賢さが際立つ物語として知られています。同じくポターの描く動物たちの物語としては、『こねこのトムのおはなし』や『ひげのサムエルのおはなし』などがあり、それぞれ異なる動物たちの愉快な冒険が描かれています。この『モペットちゃんのおはなし』もまた、ポターが創造した豊かな動物たちの世界を彩る魅力的な一ページと言えるでしょう。

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