モリガン

モリガン（Mórrígan）: 戦争の女神

モリガンは、北アイルランドのアルスター地方に根付くケルト神話における重要な戦争の女神です。彼女は破壊や殺戮、戦いでの勝利を象徴し、その名は「夢魔の女王」に由来するとも言われています。後に「大女王」と解釈されるようになったモリガンは、戦士たちを助け、戦いの運命を左右する存在として知られています。

モリガンは、戦場で戦う姿として美しい女性や恐ろしい老婆の形を持ちます。彼女は両手に二本の矛を持ちながら、背中に膝まである灰色の長髪をたなびかせ、鎧で身を固め、灰色のマントを羽織り、真っ赤なドレスを着て戦車に乗っています。この戦車は、二頭の真っ赤な馬に引かれ、戦闘の場に現れる際の印象を強く与えます。また、彼女は黒いカラスの形でも現れ、戦の神秘的な側面を象徴しています。

モリガンの存在は、戦士たちにとって祝福でもあり、彼女の愛を受け入れた者には戦場での援助が与えられました。著名な伝承『クアルンゲの牛捕り』では、クー・フーリンがモリガンの愛の告白を拒み、「今は戦いの時。愛の為の時間ではない」と応えました。彼から振り向かれなかったことに憤慨したモリガンは、彼を妨害するため変化しながら進攻しましたが、彼に足を切り落とされ、目を潰されて返り討ちに遭いました。その後、彼女は彼の傷を癒し、命の恩人となります。クー・フーリンの死に際しては、彼の肩に黒いカラスが止まっていたと伝えられています。

モリガンは妹であるヴァハやバズヴ（ネヴァン）とともに行動し、三柱は「モリグナ」と呼ばれています。また、アーサー王物語のモーガン・ル・フェイや、豊穣の女神アヌと同一視されることも多いです。

モリガンは唯一の愛人であるダグザと、ウニウス河のほとりで出会い、結婚を果たします。彼らの恋愛の証として「2人の寝床」と名付けられた岩が河のそばに存在すると言われています。さらに、彼女にはメイヘという名の息子がいましたが、彼はディアン・ケヒトによって命を奪われてしまいました。

参考文献

• - ミランダ・J グリーン著、市川裕見子訳『ケルトの神話』丸善株式会社、1997年。
• - ベルンハルト・マイヤー著、鶴岡真弓・平島直一郎訳『ケルト辞典』創元社、2001年。

モリガンは、単なる戦争の女神以上の存在であり、愛と戦争、援助や復讐が交錯する神秘的なキャラクターです。彼女の物語は、ケルト神話における重要なテーマである力と運命を象徴しています。

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