モリスコ追放

モリスコ追放

モリスコ追放（モリスコついほう、スペイン語: Expulsión de los moriscos）は、1609年4月9日にスペイン王フェリペ3世が発令したモリスコ追放の勅令である。この歴史的事件は、スペイン国内に住むイスラム教徒の改宗者であるモリスコたちに対する迫害を裏付ける出来事であり、彼らの生活と社会に多大な影響をもたらした。

背景

モリスコたちに対する監視と猜疑心は長い間続いており、キリスト教徒たちは彼らの信仰の純粋性に疑念を抱いていた。モリスコたちは一部の地域で影響力を持ちながらも、全体としては政治的・経済的に弱体であり、特にバレンシア王国やアラゴン王国では彼らの存在が顕著であった。また、当時のスペインはプロテスタント国との戦争における敗北によって、国内の統一とカトリック教徒としてのアイデンティティの確立を目指していた。

1600年代に入ると、経済的危機が進行し、困窮したキリスト教徒たちは彼らを労働競争のライバルとして目の敵にするようになった。このような状況下で、モリスコたちに対する反発と敵意が高まる。

地方ごとの対モリスコ姿勢

この時期、スペインの人口は850万人で、その中には約325,000人のモリスコが含まれていた。特にバレンシアでは、モリスコ人口が33%を占めており、彼らの存在は地域政治や経済において重要な要因となっていた。しかし、カスティーリャではモリスコの数はわずか10万人程度であったため、地域によって対モリスコの姿勢には大きな違いがあった。

モリスコたちは、表面的にはキリスト教徒として生活していたが、彼らが本当に信仰しているのはイスラム教であると考える者も多く、モリスコへの嫌悪感は増していった。一部の貴族や聖職者はモリスコを同化させようとしたが、他の階層の人々は彼らを排斥するべきだと考えるようになっていった。

勅令と追放

1609年、スペイン政府はモリスコの追放を決定。大司教フアン・デ・リベラは彼らを異教徒扱いし、追放を支持するための計画を立てた。この勅令は、モリスコたちの資産を没収することで王政の財源を強化する狙いがあった。

追放実施に向けた準備は慎重に進められ、バレンシアから追放が始まることが決まった。バレンシアの貴族たちは、モリスコ労働者を失った場合の経済的影響を懸念し、抗議活動を展開したが、政府はこれに対して限定的な補償を提案した。その結果、モリスコたちは持ち運べるものを持ち出す許可を得ることができたが、家や土地は失われた。

追放後、モリスコたちは北アフリカへと輸送され、中には船上で暴動を起こす者もいた。バレンシアに残ったモリスコたちの中には恐怖感から反乱が起こり、膨大な数の住民が巻き込まれる事態となった。最終的には、わずか数ヶ月で116,000人ものモリスコがバレンシアから追放される。

結果

モリスコ追放は、スペインの経済及び社会構造に壊滅的な打撃を与えた。特にバレンシアでは、農地が放置されたため、経済が成り立たなくなり、貴族たちも経済的困難に直面することになった。カスティーリャでは32,000人が追放されたが、これもまた地域の経済に影響を及ぼした。

この追放は単なる人口の移動にとどまらず、スペイン内での経済や権力の再配置を招いた。カタルーニャの貴族が台頭し、彼らはモリスコ追放の影響をあまり受けなかった。結果として、モリスコ追放はスペインの歴史において重要な一幕であり、社会的・経済的動態に変化をもたらした。

現代においても、モリスコの子孫が社会に存在し、彼らの過去に対する再評価が順次進められるなど、歴史的な影響は今日まで続いている。

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