バレンシア王国

バレンシア王国の歴史

バレンシア王国は、イベリア半島東海岸に位置し、かつて存在した王国です。アラゴン連合王国を構成する重要な一角であり、その歴史はレコンキスタ（国土回復運動）と深く結びついています。

イスラム支配からキリスト教国へ

元々、イスラム教徒のタイファ（小王国）として存在していましたが、13世紀のレコンキスタによってアラゴン連合王国に征服されました。1232年、アラゴン王ジャウマ1世がモレリャを奪い、その後ブリアナ、ペニスコラを制圧。1237年にはバレンシア市を攻略し、バレンシア王国の成立が宣言されました。

国境の確定とイスラム教徒問題

1243年から1245年にかけて、ジャウマ1世はカスティーリャ王国と国境を確定させ、アルミスラ条約を締結。この条約によって、アラゴン王国の南限がビアル＝ブソト線に定められました。しかし、この過程で、多くのイスラム教徒（ムデハル）が王国内に残ることになり、彼らは後にカトリックに改宗させられ、モリスコと呼ばれるようになります。モリスコは、経済活動において重要な役割を果たしていましたが、キリスト教君主への忠誠心欠如から、たびたび反乱を起こし、王国に不安をもたらしました。特に、ムーア人首領アル＝アスラクによる反乱は、王国を大きく揺るがしました。最終的に、モリスコは1609年に追放されることになります。

王国の発展と最盛期

1283年には、バレンシアに海事商務館が設置され、スペイン初の試みとなりました。13世紀末には、ジャウマ2世が南進し、現在のバレンシア州南部にあたる地域を王国領に組み込みました。1304年には、トーレリャス条約、1305年にはエルチェ条約によって、カスティーリャとの国境が確定しました。

13世紀から14世紀にかけて、バレンシア王国は経済的に繁栄し、地中海貿易の中心地となりました。バレンシア市には、銀行、株式市場の役割を果たすタウラ・デ・カンビスが創設され、貿易を活性化させました。特に、織物産業が発展し、絹取引所ラ・ロンハ・デ・ラ・セダは、当時の繁栄を象徴する建物として知られています。また、バレンシアはヨーロッパで最も早く活版印刷機が導入された都市の一つであり、文学も隆盛しました。

スペイン王国への統合と自治の喪失

15世紀末、アラゴン王フェルナンド2世とカスティーリャ女王イサベル1世の結婚によってスペイン王国が誕生し、バレンシア王国は徐々にスペインに統合されていきました。ハプスブルク家の支配下では、王国の自治権と特権は守られていましたが、スペイン帝国の拡大とともに、イベリア半島の重要性は相対的に低下しました。地中海貿易が衰退し、大西洋貿易が主流となるにつれて、バレンシアの経済は衰退し、16世紀にはヘルマニア反乱が起こるなど、社会不安が深刻化しました。

17世紀に入り、1609年のモリスコ追放は、バレンシア王国の経済に大きな打撃を与えました。この追放によって、労働力が失われ、農業が衰退しました。

1707年、スペイン継承戦争でバレンシアが敗北したことで、バレンシア王国は完全に解体されました。フェリペ5世によって新国家基本法が制定され、バレンシアの自治権は完全に失われ、中央集権化が進められました。バレンシア王国は、その歴史を通じて、独自の文化と自治権を保持していましたが、スペイン王国の形成とともに、その歴史に幕を閉じることとなりました。

その後

バレンシア王国の境界線は、現在のバレンシア州の基盤となっています。

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