モリス・デワール

モリス・デワール：ツール・ド・フランスを制したベルギーの英雄

モリス・デワール (1896年12月27日-1952年2月14日) は、ベルギー、ロヴェンデヘム出身の自転車競技選手として、特に1920年代後半のツール・ド・フランスにおいてその名を歴史に刻みました。

彼のツール・ド・フランスでの活躍は目覚ましく、1927年には総合3位、区間2勝という好成績を収めます。翌1928年も総合2位、区間2勝と、常に上位に名を連ねる強さを示しました。そして1929年、デワールはついにツール・ド・フランス総合優勝の栄冠を手にします。

1929年のツールは、デワールにとってドラマチックな展開となりました。序盤は首位を快走するも、第9ステージでヴィクトル・フォンタンに大差をつけられ、首位を奪われます。しかし、運命のいたずらと言えるでしょう。第10ステージでフォンタンが落車し、自転車が破損。当時のルールでは、同一の自転車でゴールまで完走しなければならず、修理不可能だったフォンタンはタイムオーバーとなり、レースを棄権せざるを得ませんでした。このアクシデントにより、デワールは再び総合首位に返り咲き、その後もマイヨ・ジョーヌを守り抜き、見事総合優勝を果たしたのです。

しかし、1929年の優勝は、デワール個人の力だけでなく、チーム戦略とレース規則をめぐる問題も絡んでいました。当時のツール・ド・フランスでは、個人プロ選手の参加も認められており、デワールはアルシオン・ダンロップというチームに所属していました。このチームは、デワールを優勝させるため、他のチームメイトに途中棄権を促すなど、戦略的な協力関係を築いていたのです。

このチーム戦略は、レースディレクターであるアンリ・デグランジュとの対立を招きました。デグランジュは当初、同一チーム選手間の協力関係を否定していましたが、アルシオン・ダンロップの行為は、この原則に反するものでした。この対立は決定的となり、翌1930年のツール・ド・フランスからは、トレードチームと個人参加が禁止され、国別対抗形式のチーム別対抗戦方式へと変更されました。これは、現代のツール・ド・フランスの基礎を築いた重要な転換点となりました。

デワールの活躍はツール・ド・フランスだけにとどまりません。彼は1928年と1929年のバスク一周、そして1930年のツール・ド・ベルギーでも総合優勝を果たしており、当時の自転車ロードレース界を代表するトップ選手であったと言えるでしょう。彼の功績は、ツール・ド・フランスの歴史に大きな足跡を残し、現代の自転車ロードレースにも影響を与え続けています。1929年の彼の劇的な優勝は、スポーツのドラマ性と、レース規則の変遷を物語る象徴的な出来事として、今も語り継がれています。

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