モリンホール

モリンホール：モンゴルの魂を奏でる弦楽器

モリンホールは、モンゴルを代表する二弦の擦弦楽器です。モンゴル語で「馬の楽器」を意味し、楽器の棹の先端が馬頭を模した独特の形状が特徴です。日本では、中国語名である「馬頭琴」の名称で広く知られており、絵本『スーホの白い馬』にも登場するなど、親しみのある楽器となっています。

構造と材質

モリンホールは、馬頭形の棹、四角い共鳴箱、そして二本の弦から構成されています。弦を支える駒は上下に配置され、微妙な音程調整を可能にしています。本体は木材で作られ、共鳴箱と棹の材質は地域や製作者によって異なります。内モンゴルではエゾマツやシロマツなどの松材が、モンゴル国ではシラカバが好んで用いられることが多いです。

かつては共鳴箱の表にヤギや子ラクダ、子馬などの皮革を張る伝統的な製法がありましたが、20世紀半ば以降、改良が進められました。ソ連の楽器職人D.ヤローヴォイの指導の下、モンゴル国では1960年代に、内モンゴルでは1980年代にB.ダルマーやチ・ボラグらによって、木製表板を用いる製法が確立されました。さらに、F字孔や魂柱といった要素も取り入れられ、楽器の改良は今もなお続いています。弦と弓は、馬の尾毛またはナイロンを束ねて作られ、馬の尾毛を使用する場合は、低音弦に100～130本、高音弦に80～100本、弓には150～180本もの尾毛が使用されます。

音階と音質

モリンホールの音程は、地域によって異なります。内モンゴルでは高音弦がド(C)、低音弦がソ(G)であるのに対し、モンゴル国では高音弦がシ♭(B♭)、低音弦がファ(F)となっています。また、三味線と同様に、演奏者や曲目、地域によって様々な調弦が用いられています。

モリンホールの音質は、柔らかく奥行きのある響きが特徴です。チェロやヴァイオリンのような澄んだ音とは異なり、独特のノイズを含んだ音色が、その魅力となっています。このため、「草原のチェロ」とも呼ばれ、独特の情緒を表現するのに適しています。さらに、ギターのようなハーモニクス奏法も可能です。

文化遺産としてのモリンホール

モリンホールの伝統音楽は、2003年にユネスコの「人類の口承及び無形遺産の傑作」に宣言され、2009年には正式に無形文化遺産に登録されました。これは、モリンホールの音楽がモンゴル文化において重要な役割を果たしていることを示すものです。

モリンホールは、モンゴル国内にとどまらず、国際的な舞台でも活躍しています。2005年の愛・地球博閉会式コンサートではリポー（李波）による演奏が行われ、2008年の北京オリンピックでは大規模なモリンホール演奏が披露されました。これらのイベントは、モリンホールの音楽が世界に広まるきっかけとなりました。

今後の展望

モリンホールは、モンゴルの伝統音楽を担う重要な楽器であり、その伝統を守りながら、現代音楽との融合など、さらなる発展が期待されています。その独特の音色と表現力は、これからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。

もう一度検索