モロクノエ市電

モロクノエ市電の歴史と運行

モロクノエ市電（ウクライナ語: Трамвай у селищі Молочне、ロシア語: Трамвай села Молочное）は、かつてクリミア半島の小さな村モロクノエに存在した路面電車です。この市電は1989年に観光地と宿泊施設を結ぶために開通しましたが、2015年以降は運行が停止しています。

開通の背景

モロクノエはイェウパトーリヤ近郊に位置し、人口2500人ほどの静かな村です。カラミタ湾に面しており、ソビエト時代には電波望遠鏡などの監視施設が設置されていました。特に夏季には美しい砂浜が海水浴場として賑わい、多くの観光客が訪れる人気のリゾート地でもあります。また、河口の泥に含まれる成分を利用した保養地としても知られています。

1986年、チェルノブイリ原発事故の影響で、当時のソ連国鉄はこの地域の宿泊施設を従業員の保養先として利用することを決定しました。しかし、宿泊施設は海水浴場から1.6キロほど内陸にあり、アクセスが不便でした。そこで、バスによる輸送手段では限界があったため、新たに路面電車を建設する方針が決まったのです。1989年の春から工事が開始され、その年の夏季の観光シーズンには営業運転を始めました。

運行内容と車両

モロクノエ市電の路線は全長1.5キロメートルで、宿泊施設と海水浴場を直接結んでいました。非常に小規模な路面電車であり、途中駅は設けられておらず、車庫は宿泊施設側に設置されていました。全線は専用の軌道で、開業当初は複線でしたが、後に単線に変更され、折り返し用のループ線も撤去されました。

運行は主に観光シーズンの5月中旬から8月まで行われ、1日15往復が運行され、利用者は1日に3000人以上に達していました。運賃はソ連時代には5カペイカでしたが、ソビエト連邦崩壊後は1.5フリヴニャ、ロシア連邦編入後には7ルーブルに変更されました。宿泊施設の利用客には特別乗車券が提供され、最大で1日4回の利用が可能でした。

車両は開通当初からイェウパトーリヤ市電などから譲渡されたもので、最も多く使用されていたのは、東ドイツ製のゴータカーでした。1957年と1959年に製造されたこの種の車両が運行されており、ある程度継続的にメンテナンスがされていました。そのため、この珍しい車両を目当てに国外から多くの鉄道ファンが訪れることもありました。しかし、2011年までに予備車両なども解体されていきました。

運行停止の経緯

2014年のウクライナ騒乱を受けて、モロクノエがあるクリミア半島はロシアに統治されることとなりました。この影響で観光客が激減し、2014年の運行はわずか1ヶ月に制限されることになりました。その後の2015年には宿泊施設の再建のために運行が休止されました。2016年には運行再開を予定していましたが、宿泊施設の所有者が変わったことに加え、車両と施設の老朽化が進んでいたため、結局その後も運行されることはありませんでした。

モロクノエ市電は短い運行期間ですが、地域の交通手段として多くの人々に利用され、その歴史は現在も語り継がれています。

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