モンゴルの神聖ローマ帝国侵攻

モンゴル軍による神聖ローマ帝国侵攻：1241-1242年

1241年から1242年にかけて、モンゴル帝国軍は神聖ローマ帝国領に侵攻しました。これはモンゴル軍によるヨーロッパへの大規模侵攻の最初のものでした。しかし、神聖ローマ帝国領への侵攻は、他の地域と比べて規模が小さく、大規模な戦闘は発生しませんでした。

侵攻の経緯と帝国の対応

モンゴル軍はまずポーランドに侵攻した後、ドイツ東部を経てモラヴィア地方に進出しました。モラヴィア地方は蹂躙されましたが、主要都市への攻撃は避けられました。ボヘミア王ヴァーツラフ1世はドイツ諸侯と連携してモンゴル軍の動向を監視しましたが、大規模な戦闘は避けられました。オーストリア公国北部では小規模な衝突が発生し、数百人の死傷者が出ましたが、オーストリアとハンガリー軍の連携は不十分でした。

この脅威に対応するため、神聖ローマ帝国教会と諸侯は会議を開き、教皇グレゴリウス9世は十字軍を呼びかけました。ドイツ王コンラート4世は十字軍を組織しましたが、モンゴル軍の脅威が去ったと判断され、短期間で解散しました。

神聖ローマ帝国領内では大規模な戦闘は発生しませんでしたが、「ドイツやボヘミアの王がモンゴル軍を撃退した」という噂はスペインからアルメニアまで広まりました。モラヴィアではモンゴル軍に勝利したとする伝説も生まれ、ドイツでは十字軍の行動がモンゴル軍の撤退を招いたとする記述も見られます。しかし、モンゴル軍の第一の目的はキプチャク人と同盟したハンガリー王の討伐であり、神聖ローマ帝国領の大部分は攻撃を免れたと考えられます。1241年12月と1242年1月には、オーストリア東部とモラヴィア南部が再度襲撃を受けました。

背景：帝国の内部対立とモンゴル軍の脅威

少なくとも1236年頃から、モンゴル軍の最終目標が神聖ローマ帝国であるという見方が西ヨーロッパで広まっていました。この見方は、確かな情報と終末論的な解釈が混ざったものでした。10世紀のマジャール人侵攻以来、神聖ローマ帝国にとって最大の脅威でしたが、当時、皇帝フリードリヒ2世は教皇から破門されており、帝国は教皇との対立によって内部的に弱体化していました。

1237年、ハンガリー王ベーラ4世はモンゴルからの降伏要求を受けました。皇帝フリードリヒ2世も同様の通告を受けたという説がありますが、裏付けとなる史料はありません。フリードリヒ2世はモンゴルの臣下になることを拒否したと伝えられています。モンゴル軍はオーストリア公にも服従を要求したとされます。

モンゴル侵攻の噂はヨーロッパ中に広がり、1240年にはフリードリヒ2世がイングランド王ヘンリー3世にモンゴル軍の脅威を警告する書簡を送っています。ユダヤ人商人がモンゴル軍に毒を供給していたという噂も広まり、いくつかの税関でユダヤ人が殺害されました。

1241年3月12日、モンゴル軍はハンガリーに侵攻しました。ハンガリー王ベーラ4世はオーストリア公フリードリヒ2世に援助を求めましたが、オーストリア公は小規模な部隊しか送らず、モヒの戦いでのハンガリーの敗北後にベーラ4世を捕らえ、身代金を要求しました。

モンゴル軍の侵攻：北部ドイツとモラヴィア

3月、モンゴル軍はポーランドに侵攻し、4月9日のレグニツァの戦いで勝利した後、ドイツ東部に進出しました。ボヘミア王ヴァーツラフ1世は、大規模な戦闘を避けつつ、主要都市の防衛に努めました。ドイツの教会は十字軍を呼びかけ、いくつかの会議が開かれました。しかし、モンゴル軍は西進を続けず、ボヘミアには侵攻しませんでした。モンゴル軍はモラヴィアを通過し、ハンガリーの本隊と合流しました。モラヴィアでは、モンゴル軍の通過中に多くの地域が荒廃したとされますが、考古学的な証拠は少ないです。

モンゴル軍の侵攻：オーストリア

5月下旬から6月上旬にかけて、モンゴル軍の一部がオーストリアに侵攻し、コルノイブルクを略奪しました。オーストリアでは小規模な衝突が発生し、数百人の死傷者が出たという記録が残っています。ウィーナー・ノイシュタットの戦闘に関する記録は、史実として確認しにくい部分があります。

神聖ローマ帝国側の対応

フリードリヒ2世はイタリアに留まり、モンゴル軍への対応策を指示しました。彼は十字軍を組織し、石弓の使用を推奨しました。6月20日には、各キリスト教国に協力を求める回勅を発布しました。

コンラート4世は十字軍を組織し、ニュルンベルクに集結しましたが、モンゴル軍の脅威が去ったため、戦闘には至らず解散しました。十字軍がモンゴル軍の撤退に貢献したとする記述もありますが、モンゴル軍の目的がハンガリー王の討伐であったことを考慮すると、この説は疑問視されています。

勝利の報告と後の十字軍

モンゴル軍にドイツ軍が大勝利したという噂は、多くの地域に広まりましたが、裏付けとなる証拠はありません。モラヴィアの歴史書では、1241年のモンゴル侵攻と後のハンガリー軍の侵攻が混同されている場合もあります。

モンゴル軍の脅威が去った後も、教皇は繰り返し十字軍を呼びかけました。1340年にはモンゴル軍がポーランドを侵攻し、ブランデンブルクを攻撃したとされます。しかし、モンゴル軍のヨーロッパ侵攻は、この後衰退していきました。

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