モンパルナスとルヴァロア

ジャン＝リュック・ゴダール監督による短編映画『モンパルナスとルヴァロア』は、1965年に公開されたオムニバス映画『パリところどころ』の一篇として制作されました。この作品は、フランスのモンパルナスとルヴァロワという対照的な地域を舞台に、独特の視点で人間の関係性を描き出しています。

脚本は、ジャン・ジロドゥーの小説『月曜物語』と、俳優ジャン＝ポール・ベルモンドが別のゴダール作品『女は女である』で発したセリフを元に構成されています。ゴダール監督は、これらの素材を巧みにアレンジし、独自の解釈を加えることで、シンプルながらも奥深い物語を生み出しています。

撮影は1963年12月から1964年1月にかけて行われ、モンパルナスの彫刻家フィリップ・イキリの工房と、パリ郊外のルヴァロワが主なロケ地となりました。イキリ自身は、劇中では彫刻家ロジェ役として出演しており、自身の工房を惜しげもなく撮影セットとして提供しています。

モニカ役を演じるのは、カナダ出身の女優ジョアンナ・シムカス。本作が彼女の映画デビュー作ではありませんが、本作での演技は、彼女の才能を印象づけるものとなりました。一方、ガレージマニアのイヴァン役を演じるセルジュ・ダヴリは、フランス映画界で活躍するベテラン俳優で、フランソワ・トリュフォー監督作品などにも出演しています。

撮影監督はアルバート・メイスルズが務めています。メイスルズは、ダイレクト・シネマの先駆け的作品として知られる『プライマリー』にも携わっており、その経験と技術が本作にも活かされています。ゴダールとメイスルズの協働は、後のゴダールの作品にも繋がる重要な関係性を築いています。興味深いことに、ゴダール自身は本作のクレジットで「監督」ではなく「作品組織化」という表現を使用しており、彼の作品に対する独自の姿勢が見て取れます。

物語は、モニカがモンパルナスに住むロジェと、ルヴァロワに住むイヴァンにそれぞれ手紙を出すことから始まります。しかし、彼女は誤って宛名を逆に書いてしまい、両者から拒絶されてしまうという、皮肉な結末を迎えます。このシンプルなストーリーの中に、ゴダール監督は現代社会における人間関係の複雑さや、コミュニケーションの不可能性といったテーマを巧みに織り込んでいます。

『モンパルナスとルヴァロア』は、ゴダール監督の初期作品の中でも特に注目すべき作品の一つです。独自の映像表現、俳優たちの個性的な演技、そしてゴダール監督特有のアイロニーとユーモアが、観る者に深い印象を与えます。この短編映画は、単なる恋愛物語にとどまらず、ゴダール監督の芸術性と哲学性が凝縮された、見応えのある作品と言えるでしょう。さらに、本作はゴダール監督が後の大作へと繋がる人材や技術と出会った重要な作品であり、その点からも重要な意味を持っています。16ミリフィルムによって撮影された本作は、その後『パリところどころ』としてカンヌ国際映画祭にも出品され、世界中に衝撃を与えました。この作品は、ゴダールの革新的なスタイルと実験的な手法の出発点として、映画史においても重要な位置を占めています。音楽はフィリップ・アルチュイスが担当し、全体をスタイリッシュに彩っています。また、本作にはアルフォンス・ドーデの『月曜物語』からの影響も指摘されています。これらの要素が複雑に絡み合い、独特の世界観を作り上げています。

もう一度検索