モートン・ハルペリン

モートン・H・ハルペリン（1938年生まれ）は、アメリカ合衆国の著名な政治学者であり、長年にわたり政府の要職を務めた政策実務家でもあります。彼の専門は外交政策論と核戦略論にあり、理論と実践の両面からアメリカの安全保障政策に深く関与してきました。現在は外交問題評議会の上級フェローを務める傍ら、オープン・ソサエティ財団の上級顧問として活動しています。

ニューヨークで生まれたハルペリン氏は、コロンビア大学を卒業後、イェール大学で政治学の博士号を取得しました。その後、ハーバード大学で研究活動を行った後、ジョンソン政権期に政府に入り、キャリアをスタートさせます。

彼は特に、歴代大統領の下で国家安全保障政策の形成に関わる重要なポストを担いました。ジョンソン政権では国防次官補代理として国防政策の実務に携わり、ベトナム戦争の最中という困難な時期に国防省の政策決定過程に関与しました。ニクソン政権が発足すると、短期間ながら国家安全保障会議のメンバーとしてホワイトハウスの安全保障政策立案に加わります。そして、クリントン政権下では、大統領特別顧問、再び国家安全保障会議のメンバー、そして国務省の政策企画本部長を歴任し、外交政策の戦略策定や対外関係の調整において中心的な役割を果たしました。これらの経験を通じて、彼は政府内の意思決定プロセス、特に複雑な官僚制の力学が政策に与える影響について深い洞察を得ることになります。

政府でのキャリアの合間に、ハルペリン氏は市民社会の活動にも積極的に関わりました。1984年から1992年にかけては、アメリカ自由人権協会（ACLU）のワシントンDC支部長を務め、特に国家安全保障と市民的自由のバランス、情報公開や監視といったテーマについて、権利擁護の立場から発言しました。また、研究者としても数多くの重要な著作を発表しており、中でも『Bureaucratic Politics and Foreign Policy』（官僚制政治と外交政策）は、政府内の各組織や個人の力学が外交政策をどのように形成するかを分析した古典として広く読まれています。この著作は、政府の政策決定が合理的な国家の利益のみに基づいて行われるのではなく、内部の権力争いや組織のエゴによっても大きく左右されるという、現実的な視点を提供しました。核戦略に関する初期の著作『Limited War in the Nuclear Age』（核時代の限定戦争）や『China and the Bomb』（中国と核）など、冷戦期の安全保障課題に関する分析も行っています。また、日米関係や民主主義と平和の関係など、幅広いテーマについて共著や編著も手がけています。

ハルペリン氏は、アメリカの同盟国である日本の安全保障政策についても注目しており、特に特定秘密の保護に関する法律に対しては、強い懸念を示しました。この法律について、「米国の同盟国や緊密な関係にある国々の中で最悪のものだ」と述べ、情報公開や国民への説明責任という観点から批判的な立場を明確にしました。この発言は、彼が単なる安全保障専門家ではなく、民主主義における政府の情報管理のあり方についても深く考察していることを示しています。

モートン・ハルペリン氏は、アメリカの外交・安全保障政策の現場で重要な役割を担い、その経験を基に官僚制政治の分析といった理論的な貢献も行ってきた、実践と研究を兼ね備えた政治学者です。核戦略から市民的自由、そして同盟国の安全保障法制に至るまで、彼の活動範囲は広く、アメリカ内外の政策議論に影響を与え続けています。彼の著作や発言は、複雑な政策決定プロセスの理解や、安全保障と民主主義の課題を考える上で重要な視点を提供しています。

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