モーリタニアン 黒塗りの記録

モーリタニアン 黒塗りの記録：冤罪と闘う男の14年間

2021年公開の映画『モーリタニアン 黒塗りの記録』は、アメリカ同時多発テロ事件を背景に、グアンタナモ収容所で14年間もの間、起訴されることなく拘留されたモハメドゥ・ウルド・スラヒの実話を描いた法廷スリラーです。監督はケヴィン・マクドナルド、脚本はM・B・トラーヴェン、ローリー・ヘインズ、ソフラブ・ノシルヴァンが担当し、ジョディ・フォスター、タハール・ラヒム、シェイリーン・ウッドリー、ベネディクト・カンバーバッチ、ザッカリー・リーヴァイといった実力派俳優たちが集結しています。

物語は、2001年11月、アメリカ同時多発テロ事件から2ヶ月後、モーリタニア人のモハメドゥ・ウルド・スラヒがアメリカ政府に拘束されたことから始まります。彼はテロリストとして疑われ、キューバのグアンタナモ湾収容キャンプに送られ、長期間にわたって拘留されます。起訴も裁判もないまま、彼の運命は暗闇の中に沈んでいくのです。

そんなスラヒの窮状を知ったのが、人権派弁護士のナンシー・ホランダー（ジョディ・フォスター）です。彼女は、部下のテリ・ダンカン（シェイリーン・ウッドリー）と共にグアンタナモに赴き、スラヒの弁護を引き受けます。一方、海兵隊検事のスチュアート・カウチ中佐（ベネディクト・カンバーバッチ）は、スラヒを起訴するよう命じられます。しかし、カウチ中佐は、事件の真相解明に疑問を持ち始めます。

ナンシーは、スラヒに手記を書くよう依頼します。その手記と、カウチ中佐がCIAの協力者から得た情報から、衝撃的な事実が明らかになっていきます。グアンタナモ収容所の看守たちは、マンデル将軍の命令の下、スラヒに性的暴行を含む拷問を繰り返し、虚偽の自白を強要していたのです。これは、9.11テロ容疑者をなんとしても断罪するというアメリカ政府の企みの一環でした。キューバに収容所を作ったのは、囚人を司法から隔離するだけでなく、看守たちをも司法から隔離し、この陰謀を隠蔽するためだったのです。

カウチ中佐は、この驚くべき事実を上司であるサイデル大佐に報告しますが、彼の正義感は却って彼を解任という結果に導きます。しかし、2009年12月、スラヒはアメリカ政府を訴え、2010年3月に勝訴します。しかし、政府の控訴により、釈放されるのは2016年、14年もの歳月が流れた後でした。

この映画は、単なる法廷ドラマではありません。9.11テロという歴史的事件を背景に、アメリカ政府の隠された闇、正義と人権、そして個人の尊厳といった普遍的なテーマを深く掘り下げています。タハール・ラヒムによる、抑圧されながらも決して屈しないスラヒの演技は圧巻で、観客の心に深い感銘を与えます。

映画の製作過程においては、2019年11月に製作が発表され、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョディ・フォスター、タハール・ラヒム、シェイリーン・ウッドリーといった豪華キャストが出演することが明らかになり、南アフリカでの撮影が行われました。当初は『Prisoner 760』というタイトルでしたが、後に『モーリタニアン 黒塗りの記録』と改題され、2021年2月12日に米国で公開されました。公開後にはRotten TomatoesやMetacriticで高い評価を得ており、批評家からも高い評価を得ています。

『モーリタニアン 黒塗りの記録』は、私たちに、歴史の裏側にある真実と、正義を求める闘いの大切さを改めて考えさせてくれる、重厚で感動的な一作です。

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