ヤコフ・フリエール

ヤーコフ・ヴラディーミロヴィチ・フリエール

ヤーコフ・フリエール（Yakov Vladimirovich Flier, 1912年10月21日 - 1977年12月18日）は、20世紀ソビエト連邦を代表する著名なピアニストであり、偉大な音楽教育者でした。現在のモスクワ州オレーホヴォ＝ズーエヴォに、ユダヤ系の家庭の子として生まれました。

生い立ちと初期の教育

フリエールは幼い頃から音楽の才能を示し、1923年までS.N.コルサコフに師事してピアノの手ほどきを受けました。同年にモスクワへ移り住み、名門モスクワ音楽院のピアノ科に入学します。才能豊かな若きフリエールは、高名なピアニスト、コンスタンチン・イグームノフの下で研鑽を積み、1934年に音楽院を卒業。さらに1937年まで、イグームノフのもとで研究科課程を修了しました。

ピアニストとしての輝かしいキャリア

音楽院在学中からその才能は注目されており、1935年にはモスクワ・フィルハーモニー交響楽団のソリストとしての活動を開始。国内外の舞台で精力的に演奏を披露しました。1930年代には、既にソビエト国内で最も影響力のあるコンサート・ピアニストの一人としての地位を確立していました。特に国際的な舞台では、同世代のライバルであるエミール・ギレリスとしばしば火花を散らしました。1936年にウィーンで開催された国際コンクールでは優勝を飾り、この時2位だったのがギレリスでした。また、1938年のブリュッセルで行われたイザイ国際コンクールでは3位に入賞し、この大会ではギレリスが優勝を遂げています。

フリエールのレパートリーは非常に幅広く、シューマン、ショパン、リスト、ラフマニノフといったロマン派の作曲家たちの作品を中心に、その詩情豊かで力強い演奏は聴衆を魅了しました。同時に、同時代のソ連の作曲家、特にドミトリー・カバレフスキーの作品や、アラム・ハチャトゥリアンのピアノ協奏曲なども積極的に演奏し、ソ連国内の新しい音楽の紹介にも貢献しました。しかし、1949年には手の故障という不運に見舞われ、一時的にソロでの演奏活動を断念せざるを得なくなります。この期間は室内楽の演奏に活動の焦点を移しましたが、献身的な治療と努力により、1959年には再びソロ・ステージへの復帰を果たしました。復活後のフリエールは、1960年代から1970年代にかけて、ベルギー、チェコスロバキア、ハンガリー、さらには日本、イギリス、フランスといった西側諸国でも演奏旅行を行い、その国際的な評価を確固たるものにしました。

偉大な教育者として

ピアニストとしての輝かしいキャリアと並行して、フリエールは教育者としても多大な功績を残しました。1937年からは母校であるモスクワ音楽院で教鞭を執り始め、1945年には教授に昇格。1965年からはピアノ部門の責任者として、ソビエト音楽界の将来を担う若手ピアニストたちの育成に心血を注ぎました。その指導を受けた門下生の中からは、数多くの優れた演奏家が巣立っています。フリエールの教育は、単に技術を教え込むだけでなく、音楽に対する深い理解と表現力を培うことに重点が置かれており、多くの学生に影響を与えました。

晩年とレガシー

ヤーコフ・フリエールは、その生涯を通じて、ピアニストとして、そして教育者としてソビエト音楽界に多大な貢献をしました。国際的な舞台での成功は、ソ連のピアノ教育水準の高さを世界に示すものであり、また多くの門下生を育てた功績は、後世に長く語り継がれるものです。1977年12月18日、モスクワにて死去。彼の功績を称え、ツンツェフスク墓地に埋葬されています。彼の演奏は今日でも録音を通じて聴くことができ、その芸術性は多くの人々に感動を与え続けています。

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