ヤサ

ヤサとは

ヤサ（モンゴル語: J̌asaγ）は、モンゴル帝国やその後の国家において「法令」を意味する言葉です。この言葉はモンゴル語圏で「ジャサ」や「ジャサク」とも表記され、テュルク語圏では「ヤサ」や「ヤサク」と呼ばれています。さらに、ペルシャ語や漢文の史料でもそれぞれの形で見られることから、その多様性がわかります。

ヤサの実態とその背景

ヤサに関する資料は存在するものの、具体的な内容についてはあまり詳細に記載された文献が少なく、ヤサ自体の実態については議論の余地があります。歴史的には「大ヤサ」と呼ばれる成文法典の存在が提唱されていましたが、近年ではその存在に異論も出されています。特にモンゴル帝国時代の文献では、「ヤサにかける」といった表現が多用され、これが直接的に「処刑する」ことを指す事例もありますが、ヤサそのものの具体的内容を伝える文献はジュヴァイニーの『世界征服者史』しかなく、そのためヤサ自体の理解は難しいものとなっています。

実際の用法と影響

モンゴル帝国期の資料では、「ヤサにいたらしめる」や「ヤサにかける」といった用語が頻繁に用いられたため、ヤサが実質的に何を意味していたのかを推測する手がかりとなります。たとえば、ペルシア語では「به یاسا رسانیدان（ヤサに至らせる）」という表現が使われ、これは処罰を示唆しています。このように、ヤサは法令としてだけでなく、集会や王家の間で参照される基準としても機能していたと考えられています。

研究の歴史

ヤサに対する研究は18世紀から始まり、19世紀のドーソンによる研究がそれを広めました。しかし、20世紀に入ると、食わず嫌いにされていたヤサの存在は再検討され、成文法典としての「大ヤサ」という通説が疑問視されるようになりました。この動きは、ヤサに関連する文献の歴史的価値を再評価するつながりを持っています。

21世紀に入り、チョクトは従来のヤサ研究の仮定に対し、新たな視点を提言しています。彼は、ヤサが法令や規定ではなく、「従わなければ罪に問われるものである」という抽象的な概念として認識されるべきだとしています。この考え方はヤサの実態を深く理解するための新しい視点を提供しています。

大ヤサの成立過程

「大ヤサ」に関する説にはいくつかの見解があります。1206年成立説、1218年成立説、1225年成立説、そして大ヤサ否定説などが挙げられます。1206年説はモンゴル帝国建国時にヤサが定められたとする説ですが、その証拠は必ずしも明確ではありません。1218年説では、モンゴルのクリルタイで本格的にヤサが制定されたとされ、1225年説は中央アジアからの帰還時に成立したとするものです。

ヤサと他の法体制との関係

ヤサは特にイスラム法と対立する場面が見られたため、この点でも注意が必要です。たとえば、家畜の屠殺方法などがその例です。また、ヤサに関連するその他の用語として「ビリク」や「ヨスン」があり、これらはヤサと混同されることもありますが、厳密には異なる概念とされています。

結論

ヤサはモンゴル帝国の法体系において重要な役割を果たしたものの、その具体的な内容や実態については依然として多くの未解決の問題を抱えています。そのため、今なお研究や議論は続いており、法令としての位置づけや実行されるプロセスについての分析が待たれています。

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