ヤナギ科

ヤナギ科（Salicaceae）の詳細解説

ヤナギ科は、キントラノオ目に属する植物の科であり、ヤナギやポプラといったなじみ深い木本植物を含んでいます。この科は、北半球を中心に約55属1250種もの多様な種を抱え、その生態や形態には興味深い特徴が数多く見られます。

ヤナギ科の特徴

ヤナギ科の植物は、いくつかの顕著な特徴によって区別されます。特に、ヤナギ亜科とカミニンギョウ亜科に共通する特徴として、葉の鋸歯部分に葉脈が入り込み、そこで拡大して分泌腺や短い毛となる特殊な構造（Salicoid teeth）を持つ点が挙げられます。また、サリチル酸の配糖体であるサリシンは、植物界ではヤナギ亜科でのみ確認されています。これは、アスピリンの原料としても知られるサリチル酸に関連する興味深い事実です。

ヤナギ連（Saliceae）は、ヤナギ科の中でも特に特徴的なグループです。この連は、北半球の温帯から寒帯にかけて分布し、ヤナギ属（ケショウヤナギ属、オオバヤナギ属を含む）とヤマナラシ属を含んでいます。かつてのクロンキスト体系や新エングラー体系では、これらの2属のみがヤナギ科として分類されていました。

ヤナギ連の植物は、以下の特徴を持ちます。

葉: 単葉で葉柄があり、一般的には互生します。托葉は発達しますが、早落性のものも見られます。
花: 単性で雌雄異株です。花被がなく（ただし花の根元に苞があります）、雌蕊が1本または雄蕊が1-2本からなり、尾状花序を形成します。受粉様式は、ヤナギ属やオオバヤナギ属は虫媒花、ヤマナラシ属やケショウヤナギ属は風媒花です。
果実: 蒴果で、熟すと裂開し、綿毛に包まれた小さな種子を多数放出します。この種子は柳絮（りゅうじょ）と呼ばれ、風に乗って散布されます。

ヤナギ科の分類

ヤナギ科は、約55属1250種が属する大きな科であり、いくつかの亜科と連に分類されます。以下に主なグループを紹介します。

Samydoideae亜科

主に中南米に分布し、約13属240種が含まれます。
Tetrathylacium属：2種
Lunania属：14種
Ryania属：8種
Pseudosmelia属：1種（モルッカ諸島）
Ophiobotrys属：1種（西アフリカ）
Osmelia属：3種（東洋区）
Euceraea属：2種
Neoptychocarpus属：2種
Hecatostemon属：1種
Laetia属：10種
Samyda属：9種
Zuelania属：1種
Casearia属：180種（汎熱帯）

Scyphostegioideae亜科

カミニンギョウ亜科とも呼ばれ、Scyphostegia borneensis（カミニンギョウ）1種のみで構成されます。

Salicoideae亜科

ヤナギ亜科です。
Bembicieae連：
Bembicia属：1-2種（マダガスカル）
Homalieae連（タカサゴノキ連）:
Bivinia属：1種（東アフリカ・マダガスカル）
Calantica属：約8種（東アフリカ・マダガスカル）
Byrsanthus属：1種（西アフリカ）
Dissomeria属：1種（西アフリカ）
Homalium属（タカサゴノキ属）：180種（汎熱帯）
Bartholomaea属：2種（中米）
Neopringlea属：3種（中米）
Trimeria属：2種（南米）
Abatieae連:
Abatia属：9種（中南米）
Aphaerema属：1種
Prockieae連:
Banara属：31種
Hasseltia属：3種
Hasseltiopsis属：1種
Macrohasseltia属：1種
Neosprucea属：5種
Pineda属：1種
Pleuranthodendron属：1種
Prockia属：2種
Scolopieae連（トゲイヌツゲ連）:
Hemiscolopia属：1種（東洋区）
Mocquerysia属：1種（熱帯アフリカ）
Phyllobotryon属：5種（熱帯アフリカ）
Pseudoscolopia属：1種（南アフリカ）
Scolopia属（トゲイヌツゲ属）：37種（旧熱帯）
Flacourtieae連:
Azara属：10種（南米）
Priamosia属：1種（イスパニョーラ島）
Flacourtia属：約15種（テンジクイヌカンコなど）
Lasiochlamy属：13種（ニューカレドニア）
Ludia属：23種（東アフリカ・マダガスカル・マスカリン諸島）
Olmediella属：1種（中央アフリカ）
Tisonia属：14種（マダガスカル）
Dovyalis属（セイロンスグリ属）：約15種（ケイアップルなど、アフリカ・スリランカ）
Xylosma属（クスドイゲ属）：85種（汎熱帯）
Carrierea属：3種（中国）
Idesia属：1種（イイギリ）
Bennettiodendron属：2-3種（東洋区）
Poliothyrsis属：1種（中国）
Itoa属：2種（中国南部・熱帯アジア）
Saliceae連（ヤナギ連）:
Salix属（ヤナギ属）：450種
Populus属（ヤマナラシ属）：35種

系統

ヤナギ科の系統関係は、概ね上記のような系統樹で表されますが、各連の構成にはまだ不確定な部分が残っています。特に、Flacourtieae連は側系統的であることが指摘されています。これは、分類の再検討が必要であることを示唆しています。

脚注

ヤナギ科に関する研究は、東北大学植物園が世界有数のコレクションを保持し、その系統保存に貢献しています。また、旧分類体系ではヤナギ亜科の多くがイイギリ科に分類されていたことなど、分類体系の変遷も興味深い点です。

関連項目

サリチル酸
木村有香
東北大学植物園
イイギリ科


この解説を通して、ヤナギ科の多様性と複雑さ、そしてその分類における課題について理解を深めていただければ幸いです。

もう一度検索