ヤハウィスト

ヤハウィスト（Jahwist）とは

ヤハウィスト（ドイツ語: Jahwist）は、文書仮説においてモーセ五書（創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記）の作者として想定される人物、または集団を指します。彼らは、神を「ヤハウェ」という名前で呼ぶことからこの名で呼ばれています。ヤーウィスト、ヤーヴィストとも表記されることがあります。

文書仮説とは、聖書、特に旧約聖書の最初の五つの書であるモーセ五書が、単一の作者によって書かれたのではなく、複数の異なる資料を基に編纂されたとする学説です。ヤハウィストは、その中でも最も重要な資料の一つとされています。

ヤハウィスト資料の特徴

ヤハウィストの資料は、主に『創世記』に見られます。特に、『創世記』2章4節後半から3章にかけての天地創造と人間の堕落の物語は、ヤハウィストの資料であるとされています。この部分では、創造主は「ヤハウェ・エロヒム」と呼ばれており、日本語では「主なる神」または「神である主」と訳されることが多いです。この資料は、「J資料」とも呼ばれます。

かつては、ヤハウィスト資料は祭司記者資料（P資料）よりも古いと考えられていましたが、近年の研究では、その表現形式や信仰内容が知恵文学に近いことが指摘されています。そのため、バビロニア捕囚よりも後代、つまり紀元前6世紀以降に知識階層の人々によって執筆されたという説が有力になっています。

ヤハウィストの思想

ヤハウィストの資料は、単なる神話ではなく、知識階層の人々が自分たちの信仰を表現したものであり、ヤハウェ・エロヒムと人間に対する深い洞察が含まれているとされています。彼らは、神と人間の関係を複雑かつ多面的に描き出し、人間の存在意義や道徳的な課題について深く考察しています。

ヤハウィストの物語は、人間が神によって創造され、神との特別な関係を持つ存在であることを強調しています。同時に、人間の自由意志と、それによってもたらされる罪と苦悩についても深く掘り下げています。これらのテーマは、聖書全体の重要なテーマであり、ヤハウィストの資料が旧約聖書に与えた影響は非常に大きいと言えるでしょう。

まとめ

ヤハウィストは、文書仮説における重要な概念であり、モーセ五書の理解に欠かせない存在です。彼らの文書は、神と人間に対する深い洞察と知恵文学的な特徴を持ち、旧約聖書全体の思想に大きな影響を与えています。現代の研究では、バビロニア捕囚後代の知識階層によって執筆されたという説が有力になっていますが、その思想は今日においても多くの人々にとって重要な意味を持っています。

参考文献

Bloom, Harold and Rosenberg, David. The Book of J. Publisher: Grove Press, 2005. ISBN 0-8021-4191-9.

外部リンク

The Jahwist source isolated, at wikiversity

もう一度検索