ヤマ (ヨガ哲学)

ヤマ：ヨガ哲学における倫理規範

ヤマは、サンスクリット語の「यम」と書かれ、自己制御を意味する言葉です。これは、ヨガの哲学における主な倫理規範の一つであり、ヒンドゥー教の古典的な文献に基づいています。具体的には、ヤマは「してはいけないこと」を示す戒律として位置付けられ、人生における道徳的な指導原則として機能します。これに対して、ニヤマは「するべきこと」を表します。ヤマとニヤマは、倫理的な行動が個人の成長や悟りへの道を照らす重要な要素とされています。

由来と歴史

ヤマの概念は、紀元前2000年ごろに編纂されたリグ・ヴェーダにさかのぼります。その後、ヒンドゥー教の多くの古典文献において、倫理的な指導原則として成文化されました。特に紀元後4～5世紀に編纂されたパタンジャリの『ヨーガ・スートラ』でヤマの原則が詳細に述べられています。パタンジャリは、ヨガの八支則と呼ばれる実践の最初の段階にヤマを位置づけ、心身一体の実現に向けた出発点としました。具体的には、ヤマは「有害な行為、言葉、思考の自制」を意味し、個人や社会の調和を促進するための基盤となります。

ヤマの種類

ヤマには様々な定義がありますが、一般的には以下の5つの基本的な戒律が広く認識されています。これらはパタンジャリの『ヨーガ・スートラ』第2章30節に記されています。

1. アヒンサー（अहिंसा）：非暴力。すべての生命に対して暴力を行わないこと。
2. サティヤ（सत्य）：真実性。嘘をつかず、誠実な態度を保つこと。
3. アステーヤ（अस्तेय）：窃盗をしないこと。他人の所有物を盗まない。
4. ブラフマチャリヤ（ब्रह्मचर्य）：貞操を守り、性的な自己制御を持つこと。
5. アパリグラハ（अपरिग्रहः）：所有欲を抑え、欲望に囚われないこと。

さらに、様々な文献に基づいて10のヤマが提案されており、基本の5つに以下の5つが加わります：

• - クシャマー（क्षमा）：寛容さと忍耐力。
• - ドゥリティ（धृति）：決意を持ち目標を達成する力。
• - ダヤー（दया）：他者に対する思いやりや慈悲。
• - アールジャヴァ（आर्जव）：偽りのない誠実さ。
• - ミターハーラ（मिताहार）：適度な食事を心がけること。

ヤマの果実（パーラ）

ヤマの実践を通じて得られる成果として、以下のような精神的な果実（パーラ）が得られます。

• - アヒンサー：暴力を完全に放棄することで、周囲の他者との調和が実現される。
• - サティヤ：真実を貫くことで、言葉に宿る力が増す。
• - アステーヤ：不盗を守ることから、自然に良い事物が引き寄せられる。
• - ブラフマチャリヤ：禁欲によって活力が増し、精神力も向上する。
• - アパリグラハ：自我から解放されることにより、深い知識や理解を得ることができる。

古代から中世にかけて、60以上のインド文献でヤマについて論じられ、これらの倫理規範は今日のヨガの実践者にとっても重要な指導原則となっています。また、ヤマの名称やその重要性、実践の順序などは文献によって異なることがありますが、共通するテーマは倫理的な生き方に向けた努力にあります。

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