ヤマハ・FZR750

ヤマハFZR750：伝説のレーサーレプリカとそのルーツ

ヤマハFZR750は、ヤマハ発動機が1980年代に製造したオートバイです。競技専用モデルと、公道走行可能な市販モデルの2種類が存在し、その高い性能とレーシングスピリットで多くのライダーを魅了しました。

競技専用モデル：0W74

1985年、ヤマハは全日本ロードレース選手権TT-F1クラスと鈴鹿8時間耐久ロードレースへの参戦を目的として、初の4ストロークファクトリーマシンFZR750（開発コード：0W74）を開発しました。ベースとなったのは市販モデルのFZ750ですが、フレームはYZR500を彷彿とさせるアルミ製デルタボックスフレームを新規設計。水冷DOHC5バルブ並列4気筒エンジンは、130ps以上の最高出力を誇りました。

FZ750からシリンダー前傾角を45度から35度に変更することで、ホイールベースの短縮を実現。しかし、開発初期段階ではテストライダーの上野真一氏から「物干し竿を振り回しているよう」と評されるほど、取り回しには苦労したようです。耐久レース参戦を見据えた2灯ヘッドライトは、角張った形状から「水中メガネ」や「まな板」と揶揄されました。また、高速走行時の充填効率向上に寄与するF.A.I.（フレッシュ・エア・インテーク）システムも搭載。エアインテークから吸気した空気をパイプを通してエアクリーナーへ導くこのシステムは、マシンの性能向上に貢献しました。

1985年の鈴鹿8時間耐久ロードレースでは、上野真一・河崎裕之組に加え、平忠彦とケニー・ロバーツの強力タッグが参戦。資生堂「TECH21」をスポンサーに迎え、薄紫に彩られたマシンは、予選でロバーツがポールポジションを獲得。決勝でもトップを快走しましたが、レース終盤にエンジントラブルでリタイアという結果に終わりました。その後、このマシンはフランスのチームに渡り、ボルドール24時間耐久ロードレースにも参戦しましたが、こちらもトラブルによりリタイアしました。

市販モデル：2LMとOW01

市販モデルは、FZR1000と同時発売された2LMと、レーサーレプリカのFZR750R（OW01）があります。2LMは、当時の750cc排気量規制に対応するため、欧州仕様のFZR1000をベースに日本仕様に調整したモデルです。一方、FZR750R（OW01）は、ワークスマシンYZF750とほぼ同じ車体構成を持つ、スーパーバイク世界選手権参戦用のホモロゲーションモデルとして登場。国内では500台限定で販売され、高い人気を誇りました。国内仕様と輸出仕様では、最高出力やカウルのデザインなどが異なっていました。オールFRPカウル、オーリンズリアサスペンション、チタンコンロッド、EXUPシステムなど、レース参戦も可能な高いポテンシャルを備えていました。車両開発時の試作呼称をそのまま採用したOW01という車名は、ロードレース用オートバイ開発の社内呼称と同一であることを示しています。

FZR750は、競技用モデルと市販モデルの双方で、ヤマハの技術力とレーシングスピリットを余すことなく発揮したモデルと言えるでしょう。その高い性能と希少性から、現在でも多くのファンを魅了し続けています。レースでの活躍や、市販モデルの限定生産など、多くのエピソードがFZR750というオートバイの伝説性を高めています。特に、鈴鹿8耐でのケニー・ロバーツの活躍は、多くのライダーに大きなインパクトを与えたと言えるでしょう。その後の市販モデルであるFZR750Rは、そのレーシングDNAを継承し、多くのライダーにレーサーレプリカの興奮を届けてくれました。

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