ヤマハ・FZX

ヤマハFZXシリーズ：VMaxを彷彿とさせる750ccロードスポーツと、その意外な経歴

ヤマハ発動機は、かつてFZXというオートバイを製造・販売していました。FZXという車名で一般的に知られているのは、750ccモデルのFZX750です。250ccモデルのFZX250（ジール）も存在しますが、本稿ではFZX750を中心とした大型モデルの系譜をたどります。

FZX750は、1986年5月に登場しました。当時の自主規制により、輸出専用モデルとして人気を博していたVMaxを彷彿とさせるスタイリングが特徴です。しかし、VMaxのV型4気筒エンジンではなく、同社のスポーツモデルFZ750に搭載されていた直列4気筒DOHC5バルブエンジンをベースにしています。

このエンジンは、FZ750と比較して中低速トルクを重視したセッティングに変更され、扱いやすさが向上しました。77psという当時のクラス最高出力も維持。低いシート高とバーハンドルによる快適なライディングポジションも相まって、街乗りからワインディングロードまで幅広く対応できるオールラウンダーとして人気を集めました。

1990年にはモデルチェンジを行い、トランスミッションを6速から5速に変更、最高出力を74psにデチューン。さらに中低速重視のセッティングへと進化を遂げました。その後、一時生産中止を挟みながらも1998年に再発売。しかし、排ガス規制の強化により、2000年に生産を終了しました。

FZX750は、VMaxの逆輸入車が国内で流通していたことや、750cc超の大型二輪車の国内販売が解禁されたことなどから、VMaxの廉価版と見なされることもありました。しかし、その扱いやすさから、大型自動二輪免許の教習車や技能試験車として、多くの自動車教習所や運転免許センターで幅広く採用されました。特に、低シート高は多くのライダーにとって利点でした。

教習車としてのFZX750は、後継モデルであるホンダCB750や、足着きの良いハーレーダビッドソンXL883、ホンダNC750Lなどに徐々に置き換えられていきました。教習生数の減少や予算の制約などもあり、現在ではFZX750を教習車として運用している施設は少なくなっているものの、いまだに一部の教習所や試験場で使用されているケースもあります。

一方、海外市場向けには、Fazerという名称で輸出されました。EU向けモデルは、最高出力96psという高性能を誇っていました。国内モデルとの違いは、タンデムグリップがシートベルト式からアルミダイキャスト製グリップ式に変更されていたり、バックミラーの形状が異なっていたり、スピードメーターのスケールが240km/hに拡張されていたり、カラーリングのバリエーションが豊富だったりと、細部において様々な相違点が見られます。また、北米向けのモデルは、関税の関係から700ccエンジンを搭載していました。

FZXシリーズは、その扱いやすさと教習車としての貢献により、多くのライダーに親しまれてきました。VMax譲りのスタイリングと、扱いやすいエンジン特性を持つFZX750は、ヤマハの歴史において重要な役割を担ったモデルの一つと言えるでしょう。 その歴史は、日本のバイク文化を語る上で欠かせない要素となっています。

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