ヤマハ・GTS1000/A

ヤマハGTS1000：欧州市場を目指した革新的ツアラーの光と影

ヤマハ発動機が1993年に発売したGTS1000は、1003ccの排気量を誇る大型ツアラーバイクです。同社のベストセラーモデルFJ1200の後継車種として、また当時高い評価を得ていたBMWのKシリーズに対抗するべく開発されました。しかし、このモデルは日本国内での販売は行われず、主にヨーロッパ市場をターゲットとしていました。

先進技術と販売不振

GTS1000は、当時予想された欧州の100馬力規制や将来的な排ガス規制に対応するため、キャタライザーを標準装備するなど、先進的な技術を採用していました。FZR1000をベースとしたエンジンは燃料噴射装置（EFI）を搭載し、低中速トルクを重視したセッティングが施されています。また、フレームと足回りは新設計で、特徴的な片持ちスイングアーム式フロントサスペンションを採用していました。このサスペンションは、側面から見た形状がギリシャ文字の「Ω」に似ていることから「オメガシェープドフレーム」と呼ばれていました。さらに、ABS（アンチロックブレーキシステム）搭載モデルのGTS1000Aもラインナップされました。

しかし、実際にはヨーロッパで100馬力規制は実施されず、これらの先進技術による開発コストの高騰が販売価格の上昇につながり、販売台数は伸び悩みました。1999年に生産終了するまで、細かい改良やカラーリング変更以外、大きなモデルチェンジは行われることはありませんでした。

走行性能：ツアラーとしての安定性と低速時の癖

GTS1000はツアラーとして安定した走行性能を誇ります。特に制動性能は、フロントスイングアームとABSの組み合わせにより、高い安全性を実現していました。低中速域でのエンジン特性も良く、重量級の車体にもかかわらず、常用速度域ではスポーティな走りも可能です。開発者自身も、100km/hまでの加速性能は当時のFZR1000を上回ると豪語していました。

しかし、高速域での出力特性は必ずしも優れておらず、低速域でも繊細な操作を要求する出力特性でした。また、様々な機構を盛り込んだ結果、車両重量は279kgに達し、重心も高いため取り回しにはある程度の慣れが必要でした。

特徴的な片持ちスイングアーム式サスペンションは、高速走行時の安定性に貢献する一方、低速での旋回時には独特の挙動を示しました。一般的なテレスコピック式サスペンションとは異なる操作性のため、慣れが必要でした。また、前輪には130/60ZR17という特殊なサイズのタイヤを採用していましたが、現在では入手困難であることや磨耗時の切れ込みやすさから、多くのオーナーがサイズの変更を行っていました。

まとめ：先進性と個性、そして課題

ヤマハGTS1000は、先進的な技術と独特の個性を持つツアラーバイクでした。その安定した走行性能やスポーティな動力性能は、多くのライダーを魅了しました。しかし、高価格と特殊な操作性、そして販売戦略の不備など、多くの課題を抱えていました。その結果、市場での成功には至りませんでしたが、現在では希少な存在として、多くのバイク愛好家から注目を集めています。その革新的な設計思想と、その後のバイク開発に与えた影響は、今もなお語り継がれるべきものと言えるでしょう。

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