ヤマハ・TZ

ヤマハTZシリーズ：ロードレースの歴史を彩る名車たち

ヤマハ発動機が製造したTZシリーズは、ロードレース世界選手権（GP）をはじめとする数々のレースで活躍した、伝説的な競技専用車両です。水冷2サイクルエンジンを搭載し、ワークスマシンYZRシリーズと並行して開発されました。プライベートライダーにも広く愛用され、YZRが投入されないカテゴリーでは、事実上のワークスマシンとして優勝を飾るなど、その高い性能と信頼性で多くのライダーを魅了しました。

モデルバリエーションと歴史

TZシリーズは、排気量別に様々なモデルが展開されました。代表的なモデルとその特徴を以下にまとめます。

TZ50: TZR50と同時開発された競技用モデルで、エントリー層に人気のあったマシンです。

TZ125: 1979年の初登場以来、長きに渡りロードレースシーンで活躍しました。単気筒エンジンながら扱いやすく、手頃な価格も魅力の一つでした。2009年に生産終了するまで、長年に渡り改良が加えられ、多くのライダーに愛された名車となりました。初期型はワークスマシンYZR125Rをベースに開発されました。改良を重ねるうちにクランクケースリードバルブ、倒立フォーク、リンク式リアサスなどの最新技術が導入されました。近年では、若年層のオートバイ離れ対策として、購入者へのサーキット走行スクールの無料受講特典も設けられました。

TZ250: 1973年に初代モデルが登場。空冷エンジンのTD3をベースに水冷化することで大幅な性能向上を果たしました。初期は直列2気筒でしたが、その後クランクケースリードバルブ、デルタボックスフレーム、後方排気システム、そして1991年にはヤマハ市販ロードレーサーとして初めてV型2気筒を採用するなど、技術革新を常に追求し続けました。クリスチャン・サロン選手による1984年のロードレース世界選手権GP250クラス制覇、関口太郎選手による2003年のヨーロッパ選手権全勝優勝など、輝かしい戦績を残しています。2009年の生産終了まで、長年にわたり進化を遂げ、全日本ロードレース選手権でも2006年と2007年に連続優勝を達成しました。

TZ350: 2気筒と3気筒モデルが存在します。2気筒モデルはTZ250と多くの部品を共有し、水冷化による性能向上で注目を集めました。1973年のデイトナ200マイルでは、750ccマシンを凌駕する速さで1～3位を独占する快挙を達成。3気筒モデルはヤマハオランダ法人が開発し、片山敬済選手が1977年の350ccクラス世界チャンピオンに輝きました。独特な特性を持つ3気筒エンジンは、直線での速さとコーナリング性能のバランスが課題となりました。

TZ500: ケニー・ロバーツ選手も搭乗したワークスマシンYZR500をベースとした市販レーサー。直列4気筒エンジンとカートリッジ式ミッションを搭載した高性能マシンでした。

TZ750: ワークスマシンYZR750をベースに開発された、2ストロークロードレーサーとしては世界最大排気量のモデル。直列4気筒エンジンを搭載し、鈴鹿6時間耐久ロードレースなどにも参戦しました。その圧倒的な存在感は、多くのファンを魅了し、コンプリートマシンの販売終了後も、サイドカーレーサーのパワーユニットとして長く使用されました。

TZ250M: YZRシリーズが設定されていない年に投入された、実質的なワークスマシン。原田哲也選手が1992年の全日本選手権と1993年のロードレース世界選手権で優勝を飾りました。

技術革新と進化

TZシリーズは、常に最新の技術が投入され進化を続けました。フレーム構造、エンジン設計、吸排気システム、サスペンションなど、あらゆる面で改良が重ねられ、性能向上に貢献しました。クランクケースリードバルブ、デルタボックスフレーム、YPVS（ヤマハ・パワーバルブシステム）などの技術は、TZシリーズを通じてロードレース界に大きな影響を与えました。

市販ロードレーサーとしての役割

TZシリーズはワークスマシンの技術をフィードバックした市販レーサーとして、多くのライダーに高度なレース技術の習得機会を提供しました。また、プライベートチームやライダーの活躍を支え、ロードレース界の発展に大きく貢献しました。生産終了となった現在でも、その高い性能と歴史的価値から、多くのコレクターに人気があります。

衰退と生産終了

2000年代に入ると、環境規制の強化や若年層のオートバイ離れなどにより、ロードレース選手権のエントリー台数が減少。TZシリーズも例外ではなく、生産台数は激減し、TZ125とTZ250は2009年に生産終了となりました。しかし、TZシリーズがロードレースの歴史に刻んだ功績は、今後も色褪せることはありません。

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