ヤークート・アル＝ハマウィー

ヤークート・アル＝ハマウィー：奴隷から地理学者、そして辞典編纂者へ

ヤークート・アル＝ハマウィー（1179年 - 1229年）は、イスラーム世界の地理学者、詩人として知られています。彼は、奴隷という低い身分から学問を修め、見聞を広げ、最終的には辞典を著すという異色の経歴の持ち主です。

生涯

ヤークートは、ビザンツ帝国出身の両親のもと、アナトリア半島で生まれました。幼い頃に捕虜となり、バグダードで奴隷として売られます。そこでハマーの商人アスカルに買い取られ、アスカルが用意した家庭教師から学問を学びました。また、アスカルの代理としてオマーン、シリア、ペルシアなど各地を旅し、見聞を広めます。

20歳頃にアスカルと仲たがいし、バグダードで写本業に従事します。その傍ら、多くの書物を読み、学者たちの講義を聴講し、知識を深めました。その後、アスカルと和解し、アスカルの死後には独立して書店を開業しました。

1215年にダマスカスを訪れた際、カリフ・アリーの悪口を言ったことが原因で襲撃を受け、命からがらメルヴへ逃れました。メルヴでは図書館で資料を収集し、地理学辞典の構想を練り始めます。1219年にモンゴル帝国のホラズム侵攻の情報を聞きつけると、資料を抱えて西方へ避難しました。

1220年にモースルにたどり着き、1224年に辞典の初稿を完成させ、1228年に代表作となる『地理学辞典』（「諸国集成」）を完成させました。彼は亡くなる直前まで辞典の改訂を続け、1229年8月20日に生涯を閉じました。

業績

ヤークートは、既存の資料をまとめ、整理し、後世の人が利用しやすい形で伝えることに貢献しました。彼自身は新しい概念を生み出すタイプの学者ではありませんでしたが、その編集能力と情報整理能力は高く評価されています。

『地理学辞典』

ヤークートの代表作である『地理学辞典』は、アラビア文字のアルファベット順に地名が配列され、イベリア半島から中央アジア、インドの一部にいたる広範囲な地域の町、山、河川について解説が加えられています。地理的な情報だけでなく、歴史、人種、自然誌に関する記述も含まれており、当時の世界を知る上で貴重な資料となっています。

その他の著作

ヤークートは『学者文人事典』や『類語辞典』など、多くの辞典を著しました。これらの著作は、彼に名声をもたらすとともに、後世の研究者にとって重要な情報源となりました。特に、失われた古書の記述を引用している点は、資料的価値を高めています。その他、アラブ民族の系図を研究した作品や、『詩人たちの物語』『文人たちの物語』といった作品も著しましたが、その多くは散逸しています。

ヤークート・アル＝ハマウィーは、奴隷という逆境を乗り越え、学問を通して自らの道を切り開いた人物です。彼の著作は、現代においてもイスラーム世界の歴史や文化を理解するための重要な手がかりとなっています。

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