ユキヒメドリ

概要

ユキヒメドリ（学名：Junco hyemalis）は、鳥綱スズメ目ホオジロ科に属する鳥類の一つです。和名の「雪姫鳥」、そして学名の種小名「hyemalis」がラテン語で「冬の」を意味することから示唆されるように、特に冬季に雪景色の中で目にされる機会が多い鳥として知られています。北米大陸に極めて広範に分布しており、都市部の公園や庭園など、人の生活圏にも頻繁に姿を見せることから、最も一般的で親しまれている野鳥の一つに数えられます。地域や生息環境に応じて形態や羽色に顕著な違いが見られ、これらはいくつかの亜種群（例：スレートカラードジュノウ、オレゴンジュノウ、ホワイトウィングドジュノウなど）に分類されることがあります。

形態

成鳥の体長は約13センチメートルから16センチメートル程度で、スズメよりもやや大きいか同程度のサイズです。全体的な羽色は、亜種群によって大きく異なりますが、典型的な形態では、頭部から胸にかけて灰色で、背中や翼も灰色の濃淡で彩られます。腹部は明瞭な白色を示し、この白と灰色のコントラストが特徴の一つです。特に重要な識別のポイントとして、尾羽の外側2枚が白いことが挙げられます。この白い尾羽は、鳥が飛び立つ際や着地する際にパッと開き、白いフラッシュのように見えるため、飛翔中の観察でよく目立ちます。嘴は短く円錐形で、種子をついばむのに適した形状をしています。雄と雌の間には、わずかな色合いの差や模様の違いが見られることがありますが、性的二型は顕著ではなく、多くの場合は外見からの識別は困難です。地域による色彩の変異は非常に大きく、例えばオレゴンジュノウは脇腹に褐色がかった色が入る傾向があります。

分布と渡り

ユキヒメドリは、アラスカからカナダ、アメリカ合衆国全域、そしてメキシコ北部にかけて、北米大陸の広大な範囲に分布しています。繁殖期（通常、春から夏）は主にカナダの森林地帯やアメリカ合衆国北部の山岳地帯で過ごしますが、冬季になると多くの個体がより温暖な地域へと南下し、アメリカ合衆国南部やメキシコで越冬します。このため、多くのユキヒメドリは典型的な渡り鳥ですが、生息地によっては年間を通して同じ場所に留まる留鳥として観察される個体群も存在します。渡りの距離は様々で、繁殖地から数百キロメートル、時には数千キロメートルを移動することもあります。越冬期には、都市部の公園、庭園、農耕地など、開けた場所や人間の居住地近くでもよく見かけられるようになります。

生態

多様な環境に適応しており、針葉樹林、広葉樹林、混交林といった森林地帯のほか、疎林、公園、庭園、藪地など、比較的開けた場所や人間の活動域の近くでも見られます。特に、森林の林床や茂みの中で活動することが多いです。食性は季節によって変化しますが、年間を通じて主に草本の種子を食料とします。地上に降りて、落ち葉や土を嘴や足で掻き分けながら種子を探し出す様子がよく観察されます。繁殖期には、雛の餌として昆虫やクモなどの無脊椎動物も積極的に捕食します。冬季には、餌台に撒かれた種子なども利用します。社会性が強く、繁殖期以外は数羽から数十羽、時にはそれ以上の大きな群れを形成して行動します。地面で餌を探している際などに、危険を察知すると一斉に近くの木や茂みに避難します。

繁殖

繁殖期は通常、春から夏にかけて訪れます。ユキヒメドリの巣は主に地上に作られます。地面の窪み、傾斜地の根元の隙間、倒木の下、あるいは低木の茂みの中などに、椀状のしっかりとした巣を構築します。巣材には、枯れ草、細い根、コケ、葉、動物の毛や植物の綿毛などが用いられます。一度の繁殖サイクルで、通常3個から6個の卵を産みます。卵は淡い青灰色や白色を基調とし、褐色や紫がかった細かい斑点や筋が入ることが多いです。抱卵期間は約12日から13日間で、主にメスが行いますが、オスが短時間抱卵を代わることもあります。孵化した雛は、約10日から13日間で巣立ちを迎えます。雛への給餌はオスとメスの両方が協力して行い、子育てに積極的に関与します。気候や環境が良ければ、年に2回繁殖することもあります。

鳴き声

ユキヒメドリのさえずりは、比較的単純な構成をしています。通常、「チー、チー、チー…」といった、一定の音程で繰り返される連続的なトリル（ふるえ声）です。特に春の繁殖期に、オスが高い場所でさえずるのが聞かれます。地鳴きとしては、「チッ」や「ジッ」といった短い、硬い音を発することが多いです。これらの地鳴きは、群れでの採食中の個体間の連絡や、場所を示すサインとして用いられます。警戒時には、「ジージー」という擦れた音や、より強い「チッ」という音を連続して出すことがあります。これらの鳴き声は、生息環境や状況によって使い分けられます。

参考文献

本記事は、ユキヒメドリに関する広範な生態学的・行動学的研究に基づいています。

Nolan, V., Jr., E. D. Ketterson, D. A. Cristol, C. M. Rogers, E. D. Clotfelter, R. C. Titus, S. J. Schoech, and E. Snajdr. 2002. "Dark-eyed Junco (Junco hyemalis)" in The Birds of North America, No. 716 (A. Poole and F. Gill, eds.). The Birds of North America, Inc., Philadelphia, PA.

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