ユナイテッド・ステーツ (客船)

ユナイテッド・ステーツ（SS United States）

「ユナイテッド・ステーツ」は、かつてユナイテッド・ステーツ・ライン（USL）が運航していたアメリカの客船です。就航後、USLのフラッグシップとして活躍し、大西洋横断航路でブルーリボン賞を獲得、ヨーロッパの船舶が独占していた記録を塗り替えました。東回り航路の記録は後に更新されましたが、西回り航路の記録は現在も保持しています。

USLが貨物輸送専業となったことで、1969年に営業を停止。1996年以降はフィラデルフィアのドックに係留されたままとなっています。

建造の背景

第二次世界大戦中、イギリスの客船が兵員輸送に活用されたことを受け、アメリカ政府は大型高速客船の有用性を認識。多数の兵士を輸送可能な船舶の建造を決定しました。

設計は、数々の著名なアメリカ船舶を手がけたウィリアム・フランシス・ギブスに依頼。アメリカ海軍とUSLの共同で建造が進められました。建造費7,800万ドルのうち、5,000万ドルをアメリカ政府が援助しました。また、輸送船への改装や病院船への転用も考慮された設計となっていました。

朝鮮戦争の最中、冷戦下という状況もあり、有事の際には軍艦として徴用される計画があったため、ユナイテッド・ステーツは海軍仕様で建造され、攻撃を受けても沈みづらい構造でした。火災対策も徹底され、内装や調度品には木製の部品が一切使用されず、耐火性に優れた素材が用いられました。

船体の大部分はアルミ合金で作られ、特殊な技術で鋼鉄と接合されました。アルミの使用により大幅な軽量化に成功。パナマ運河を通過できるサイズでありながら、当時最も馬力のあるエンジンを搭載し、高速性能と長距離航続を可能にしました。

輝かしい就航

1952年7月、ユナイテッド・ステーツは大西洋横断航路で当時の記録を大幅に更新し、ブルーリボン賞を獲得。その速さから、「キュナード・ラインのクイーン・メリーとクイーン・エリザベスのライバル」と評されました。

しかし、最高速度については誇張された情報が流布し、長年信じられてきました。実際には38.32ノットでしたが、当初は43ノットと発表されていました。

退役とその後

1960年代に入ると、航空機の発展により大西洋横断旅客船の乗客は激減。ユナイテッド・ステーツも1969年に営業を停止しました。

その後、複数の船主の手に渡り、輸送船や病院船への転用計画もありましたが実現せず。1984年には船の家具類が売却され、レストランで使用されています。1992年にはアスベスト除去が行われ、最終的にはフィラデルフィアのデラウェア河畔に係留されました。

東回り航路のブルーリボン賞は1990年に奪われましたが、西回り航路の記録は今も保持しています。

1999年には国定歴史建造物に指定。2003年にはノルウェージャン・クルーズラインが買収しましたが、アスベスト処理の問題などから現役復帰は実現しませんでした。現在は保存団体「SS United States Conservancy」（SSUSC）が管理し、救済資金を集めています。

再び困難な状況へ

2016年にはクリスタル・クルーズが購入計画を発表しましたが、安全基準の問題から断念。その後もSSUSCが博物館や複合施設への改修を目指し資金調達を行っています。

2018年にはRXRリアルティがホテルやイベントスペースとしての再利用を検討しましたが、実現には至っていません。2022年には係留料金の値上げと滞納により、埠頭からの撤去が求められる事態となりました。

魚礁への転用計画

2024年8月にはフロリダ州オカルーサ郡が購入し、人工魚礁として活用する計画が発表されました。しかし、SSUSCが売却の違法性を訴え、訴訟に発展。今後の動向が注目されます。

「ユナイテッド・ステーツ」は、アメリカの栄光と衰退を象徴する存在として、今も人々の記憶に残っています。

ギャラリー

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参考文献

野間恒：著「有名客船物語　ユナイテッド・ステーツ／アメリカ」『世界の艦船』414号、1989年

外部リンク

SS United States Conservancy
* 乗りものニュース｜2016.03.05｜“強きアメリカ”象徴の船、復活か　いまだ“最速”の称号持つ64歳

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