ユルギス・バルトルシャイティス

ユルギス・バルトルシャイティスは、1903年にロシアのモスクワで生まれ、20世紀を代表する美術史家、文学研究者として活躍しました。リトアニア人の父は象徴主義の文学者であり、パリへの亡命後もその影響は彼の人生に深く刻まれています。少年時代には作家ボリス・パステルナークから教えを受け、早くから芸術への関心を培いました。

1924年にパリへ移り、ソルボンヌ大学でアンリ・フォシヨンに師事したことが、彼の美術史研究への転機となりました。フォシヨンの影響のもと、バルトルシャイティスはアルメニア、ジョージア、スペイン、イタリア、ドイツなど、各地の美術史を幅広く研究し、1931年には博士号を取得しました。また、演劇にも深い関心を寄せ、多角的な視点から芸術を捉えようとしました。

研究者としてのキャリアは多岐にわたり、リトアニア大使館付研究員を務めたほか、ヴィータウタス・マグヌス大学、ソルボンヌ、ロンドン・ウォーバーグ研究所などで研究と講義を行いました。第二次世界大戦後は、ニューヨーク大学、イェール大学、ハーバード大学などの著名な大学で教鞭を執り、メトロポリタン美術館でも講義を行うなど、世界的な教育者としても活躍しました。

バルトルシャイティスの著作は、中世美術、特にロマネスクやゴシック美術における斬新な視点と、その多岐にわたるテーマが特徴です。初期の研究では、アルメニアやグルジアの中世美術に焦点を当てましたが、その後、ロマネスク彫刻の装飾様式論や、アナモルフォーズ（歪像画法）といった独自のテーマに取り組みました。彼の著作は、美術史研究に留まらず、文化、神話、人間の認識といった広範な領域にまで及んでいます。

代表的な著作には、『ロマネスク彫刻の装飾様式論』、『異形のロマネスク 石に刻まれた中世の奇想』、『アナモルフォーズ 光学魔術』、『幻想の中世 ゴシック美術における古代と異国趣味』、『アベラシオン 形態の伝説をめぐる四つのエッセー』、『イシス探求 ある神話の伝承をめぐる試論』、『鏡 科学的伝説についての試論、啓示・SF・まやかし』などがあります。これらの著作は、美術史研究者のみならず、哲学、文学、科学など、さまざまな分野の研究者や愛好家にとって、重要な示唆を与え続けています。

バルトルシャイティスの研究は、単なる美術史の記述にとどまらず、歴史と文化、そして人間の認識に対する深い洞察を示しています。彼の著作は、中世美術の新たな解釈を提示し、美術史研究に大きな影響を与えました。また、アナモルフォーズや鏡といった、視覚的な現象や象徴的なイメージを分析することで、人間の認識や文化の深層に迫ろうとしました。彼の学問的な探求は、美術史、文学、哲学、神話、そして科学といった分野を超えて、現代の我々にも多くの問いを投げかけています。その業績は、没後もなお、多くの研究者や読者に影響を与え続けています。

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