ユーゴノスタルギヤ

ユーゴノスタルギヤ：失われた国への郷愁と批判

ユーゴノスタルギヤ（jugonostalgija）とは、旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国に対する懐古的な感情を指す言葉です。この言葉は、ユーゴスラビア地域の人々によって広く使われていますが、その意味合いは肯定的な個人的述懐と否定的な侮蔑用語という、相反する2つの側面を持っています。

ユーゴノスタルギヤの肯定的な側面

肯定的な意味合いにおいて、ユーゴノスタルギヤは、かつてのユーゴスラビアの肯定的側面への愛着や懐かしさを表します。具体的には、以下のような要素が挙げられます。

経済的な安定： ユーゴスラビア時代は、社会主義体制下でありながらも比較的安定した経済状況が保たれていました。
社会保障の充実： 医療、教育、住宅などが手厚く保障されていました。
多文化主義と国際主義： 異なる民族や文化が共存し、非同盟運動を通じて国際的な地位を確立していました。
社会主義思想： 平等や連帯といった社会主義的な価値観が共有されていました。

ユーゴノスタルギヤを抱く人々は、ユーゴスラビア崩壊後の国々が抱える問題点、例えば、民族的排外主義、政治・経済的な汚職、社会保障制度の廃退、経済的苦境、収入の不均衡、高い犯罪率などに不満を抱いています。

ユーゴノスタルギヤの否定的な側面

一方、ユーゴスラビア崩壊後の体制を支持する人々は、ユーゴノスタルギヤを否定的な意味合いで使用します。彼らは、ユーゴスラビアを肯定する考え方を時代錯誤、非現実的、非愛国的であり、反体制的なものであると非難します。特に、戦時中には、新しく独立した国々のメディアにおいて、政治的な議論の中で否定的な意味合いで使用されることがありました。

ユーゴノスタルギヤという言葉は、もともとこのような否定的な意味合いで用いられるようになったものであり、ユーゴスラビア崩壊直後のクロアチアにおいて、政府の統制下にあるメディアが政治的な非難のために使い始めたのが始まりでした。

現代におけるユーゴノスタルギヤ

現代において、ユーゴノスタルギヤは文化的・趣味的なものとして残っています。ユーゴスラビアやチトー主義的な古い図柄を用いる音楽グループや、絵画、映画、演劇などが制作され、サラエヴォやベオグラードといった旧ユーゴスラビアの都市を巡るテーマ・ツアーも人気を集めています。

しかし、政治的な支持は限定的です。セルビアでは、ユーゴスラビアの再統合を公然と訴える政党はごくわずかしか支持されていません。スロベニアに至っては、欧州連合やNATOに加盟し、完全に西側諸国の一員へと再統合された国であり、ユーゴスラビアへの支持はほとんど見られません。

ユーゴスラヴ主義の終焉

ユーゴスラビア崩壊以降、ユーゴスラヴ主義は大きく支持を失いました。ユーゴスラビアの名前はセルビア・モンテネグロで2003年まで維持されていたものの、後に個別の国名に置き換えられました。自身をユーゴスラビア人であると自認する住民も、この地域で大きく数を減らしています。

かつてユーゴスラビアの共通語であったセルビア・クロアチア語は、現在では旧ユーゴスラビアのいかなる元構成国の公用語にもなっていません。インターネットの国別ドメイン「.yu」も、ユーゴノスタルギヤ的なウェブサイトでよく使用されていましたが、2010年に廃止されました。

ユーゴノスタルギヤは、失われた国への郷愁と、その終焉に対する複雑な感情が入り混じった、現代社会における特異な現象と言えるでしょう。

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