ユーザビリティ

ユーザビリティとは何か？

ユーザビリティとは、製品やシステムがどれだけ「使いやすいか」を測る指標です。国際規格ISO 9241-11では、「特定の利用者が、特定の目的を達成するために、特定の状況下で、製品をどれだけ効果的、効率的、満足のいくように利用できるかの度合い」と定義されています。単に「使い勝手がいい」というだけでなく、「可用性」や「有用性」といった要素も包含する概念です。

例えば、ハサミを例にとると、切れ味が良く、短時間で紙を切れるハサミはユーザビリティが高いと言えます。反対に、切れ味が悪く、時間をかけてやっと切れるハサミはユーザビリティが低いと言えるでしょう。

ユーザビリティの定義

「use（使う）」と「able（できる）」という単語から派生した「使えること」がユーザビリティの根本的な意味です。

ISO 9241-11の定義

ISO 9241-11:2018に基づくJIS Z 8521:2020では、ユーザビリティを構成する要素を以下のように定義しています。

目標 (goal): 意図した成果
効果 (effectiveness): ユーザが特定の目標を達成する際の正確性と完全性
効率 (efficiency): 目標達成のために費やした資源
満足度 (satisfaction): 製品やサービスの利用によってユーザーのニーズと期待が満たされる度合い

ユーザビリティは、システムそのものの品質ではなく、ユーザーがシステムを利用した結果得られる成果の特性の一つです。利用成果には、ユーザビリティの他にアクセシビリティや危害の回避といった要素も含まれます。

ニールセンの定義

ヤコブ・ニールセンは、著書『ユーザビリティエンジニアリング原論』(1994年)において、ユーザビリティを以下の5つの特性からなる多角的な概念として定義しました。

1. 学習しやすさ (learnability): 初めて利用するユーザーでも簡単に操作を始められること
2. 効率性 (efficiency): 一度使い方を覚えたユーザーが効率的に作業できること
3. 記憶しやすさ (memorability): しばらく使っていなくても、すぐに操作を思い出せること
4. エラー (errors): エラー発生率が低く、発生しても容易に回復できること
5. 主観的満足度 (satisfaction): ユーザーが満足して利用できること

ニールセンの定義とISO 9241-11の定義の違い

ニールセンの定義は、ISO 9241-11の定義よりも意味がやや限定的です。ニールセンは、システムがユーザーの求める機能を満たしているかという「ユーティリティ（実用性）」と、その機能をどれだけ便利に使えるかという「ユーザビリティ」を区別しました。一方、ISO 13407では、ニールセンが「ユーティリティ」と定義した内容もユーザビリティに含んでいます。

ユーザビリティの様々な訳語

ユーザビリティには、以下のような様々な訳語が存在します。

使い勝手: 使いやすさの程度を示す言葉で、操作の容易さや機能の便利さなどを包括します。ISO 9241-11の定義に近い概念ですが、ユーザーの利用状況や目標達成というニュアンスまでは表現しきれないため、ユーザビリティというカタカナ語が一般的に使われています。
使いやすさ: 一般的に操作の容易さを意味し、使い勝手よりも操作部位に限定される傾向があります。
利用性: 利用のしやすさを意味する言葉ですが、目標達成に依存する側面があるため、あまり一般的ではありません。
使用性: ISO9241-11をJIS規格にする際に「usability」の訳語として用いられましたが、一般的な用語ではありません。
可用性: システムの壊れにくさを示す言葉で、ユーザビリティとは異なる概念です。
利用品質: 英語の「quality in use」または「quality of use」の訳で、ユーザビリティとほぼ同義ですが、品質保証や品質管理の文脈で使われることが多いです。

ユーザビリティの背景

ラリー・テスラー

コンピュータ科学者のラリー・テスラーは、「カット」「コピー」「ペースト」のコマンドを発明し、初のGUIワープロGypsyを開発しました。彼は1974年頃からユーザビリティに関する研究開発に携わり、「modeless」「user-friendly」「WYSIWYG」といった言葉を用いて、ユーザフレンドリーデザインの父と呼ばれています。

ブライアン・シャッケル

人間工学者のブライアン・シャッケルは、ユーザビリティを「ユーティリティ（必要な機能があるか）」「ユーザビリティ（ユーザがうまく使えるか）」「ライカビリティ（ユーザが適切だと感じられるか）」の3つの側面から捉え、コストとのバランスを考慮したアクセプタビリティという概念を提唱しました。この考え方は、後のユーザビリティ概念に影響を与えました。

ニールセンのユーザビリティ概念

ニールセンは、ユーザビリティを「学習しやすさ」「効率」「記憶しやすさ」「エラー」「満足」という5つの品質要素から構成される概念として示しました。彼は、ユーザビリティを「マイナスの側面を0レベルまで向上させる」という考え方で捉え、「ユーティリティ」を「製品のポジティブな側面」として区別しました。ニールセンのユーザビリティは「小さなユーザビリティ」と呼ばれることがあります。一方、ISO 9241-11の定義はより幅広く、ポジティブな側面を含んでいるため「大きなユーザビリティ」と呼ばれることがあります。

ISO規格におけるユーザビリティ

ユーザビリティの概念に明確な定義を与えたのがISO規格です。ISO規格には、ISO 9126系とISO 9241-11系のものがあります。

ISO 9126

ISO 9126は、ソフトウェアの品質に関する規格で、ユーザビリティを「使用性」として捉え、「理解性」「習得性」「操作性」から構成される概念としています。しかし、この規格のユーザビリティ定義は必ずしも厳密ではなく、現在は次に述べるISO 9241-11の定義が一般的に利用されています。

ISO 9241-11

ISO 9241-11は、国際標準化機構が制定するユーザビリティ定義に関する規格で、ユーザビリティを「効果」「効率」「満足」の3つの要素で定義しています。この規格は、ニールセンの定義よりも幅広い概念を包含しており、その後の様々な規格で用いられています。

ユーザビリティの測定と評価

ISO 9241-11の文脈では、ユーザビリティそのものを直接測定することはできません。代わりに「効果」「効率」「満足」を測定し、それらを総合的に評価します。ユーザビリティは、文脈、ユーザー、タスクによって大きく変化するため、3つの要素の寄与率も条件ごとに異なります。そのため、統一的な評価手法は存在せず、都度総合的に評価する必要があります。

測定尺度には、タスク所要時間のような客観的な結果に基づくものと、ユーザーの満足度のような主観的な結果に基づくものがあります。

測定対象は「効果」「効率」「満足」であり、ユーザーテストや専門家評価などの手法を用いて測定します。

ユーザビリティの利用と目的

ユーザビリティを測定・評価することには、ユーザーによるシステム利用を促進し、ユーザーへの便益を向上させ、提供者の優位性を与えるという価値があります。そのため、利用促進、価値向上、市場拡大などを目的にユーザビリティ測定が行われます。

客観的尺度と主観的尺度の比較は、システム改善に役立ちます。例えば、客観的に低い効果でも主観的に高く評価されている場合、システムが過剰な効果を持っているか、ユーザーが効果を誤認している可能性があります。これらの情報は、コスト削減やユーザーへの便益改善に利用できます。

ユーザビリティとデザイン

ユーザビリティを設計するプロセスとして、人間中心設計があります。これはISO 9241-210で規格化されています。

美的ユーザビリティ効果

美的ユーザビリティ効果とは、審美性がユーザビリティを向上させる現象です。ユーザビリティは、システムを見て感じる「見かけのユーザビリティ」と、実際に利用して感じる「実質的ユーザビリティ」に分類できます。心理実験の結果、美しいものは「使いやすそう」と感じられやすいことが明らかになりました。これは、実際の使いやすさに関わらず、人が美しいものを使いやすいと錯覚する心理特性によるものです。

この効果は、デザインにおいて重要な示唆を与えます。たとえ使いやすくても、美しくなければそれが伝わらないかもしれません。また、使いやすそうに見えても、実際は使いづらい可能性があります。さらに、見かけを良くすることで、使いやすさを偽って売り込むことも可能です。そのため、デザインの際は、見た目だけでなく、実際の使いやすさを両立させることが重要です。

美的ユーザビリティ効果は、Webページのような一回性のシステムで前面に出やすく、アプリのような継続利用前提のサービスでは、実質的なユーザビリティが評価の主軸となります。

まとめ

ユーザビリティは、製品やシステムがどれだけユーザーにとって使いやすいかを示す重要な概念です。ISO規格やニールセンの提唱する定義を理解し、ユーザビリティを意識したデザインを行うことで、ユーザーの満足度向上や製品の価値向上につながります。また、美的ユーザビリティ効果のような心理的な側面も考慮することで、より効果的なデザインが可能となります。

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