ユートピア (2018年の映画)

ユートピア

2018年に公開された日本のSFファンタジー映画である。特に、東京・下北沢のミニシアター、トリウッドで封切られた。これは、監督の伊藤峻太が実に7年の歳月をかけて構想を練り、さらに5年を費やして完成させた、情熱のこもった自主制作作品として知られている。

概要とテーマ

本作の根幹にあるのは、古くから語り継がれる童話『ハーメルンの笛吹き男』からの着想である。これに加え、トマス・モアによる理想郷の概念を描いた『ユートピア』、人類の再生を象徴する神話『ノアの箱舟』、そして現代社会における気候変動の一因ともなりうる太陽風といった多様な要素が巧みに織り交ぜられ、独自のSFファンタジー世界が創造されている。単なる童話の翻案に留まらず、神話や現代的な問題意識を融合させた、多層的なテーマを持つ作品と言える。

また、映画内で重要な役割を果たす「ユートピア語」は、監督自身である伊藤峻太と撮影監督の椎名遼によって独自に作り出されたものである。単なる雰囲気作りではなく、文法構造まで詳細に設定されており、作品の世界観に深みを与えている。

ストーリー

物語は、ある夏の朝、主人公まみが目を覚ますと、窓の外に予期せぬ雪が降り積もり、電気や水道といった生活を支えるライフラインが突然途絶しているという異常事態から始まる。混乱するまみの前に、謎めいた少女ベアが現れる。やがて明らかになるのは、ベアが1284年にドイツのハーメルンで笛吹き男によって連れ去られた130人の子供たちのうちの一人であるという驚愕の事実であった。時を同じくして、遠く離れた大都市・東京でも、子供たちが次々と姿を消す不可解な現象が発生し始める。この二つの出来事が交錯することで、物語は予断を許さない展開へと進んでゆく。

スタッフ・キャスト

本作を支えた主要なスタッフとキャストは以下の通り。

スタッフ

プロデューサー：大槻貴宏
監督・脚本・VFX：伊藤峻太
助監督：市原博文
撮影・音楽：椎名遼
美術：阿部晴果、倉田奈純
制作・衣装制作：湯浅志保子
ラインプロデューサー：山本達也

キャスト

まみ：松永祐佳
ベア：ミキ・クラーク
エアリ：高木万平
コニ：森郁月
岡英雄：吉田晋一
マグス：地曵豪
オールデ：ウダタカキ
ウォン：まなせゆうな

受賞歴

自主制作ながらもそのクオリティと独創性は高く評価されており、複数の映画祭で主要な賞を獲得している。

Seisho Cinema Fes 2019 中長編部門グランプリ
福井映画祭 第13回長編部門グランプリ

音楽

映画を彩る音楽も重要な要素である。クラシックの名曲から日本の唱歌、そして本作のために作られたオリジナル曲まで、多彩な楽曲が使用されている。

主な挿入曲

『交響曲第九番 第四楽章』 作曲：ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
『桃太郎』 作詞：文部省唱歌 作曲：岡野貞一
『こいのぼり』 作詞・作曲：文部省唱歌
『故郷』 作詞：高野辰之 作曲：岡野貞一
『かたつむり』 作詞：葛原しげる 作曲：小松耕輔
『登山電車』 作詞：椎名遼 作曲：DENZA LUIGI
『うらしまたろう』 作詞・作曲：文部唱歌

また、映画のオリジナル・サウンドトラック・アルバムもリリースされている。本作で撮影監督も務めた椎名遼が音楽も担当しており、映画の世界観を音で表現している。アルバムには、監督の伊藤峻太が作詞・作曲を手がけた主題歌『リピーター』も収録されている。

オリジナル・サウンドトラック収録曲

再会の夢
始まる
ここはどこ？
真夏の雪
異国から
不審者のテーマ
700年
手がかりを求めて
合流
はじめての音楽
浦島太郎
語られる火
汚れた人
路地裏の追跡
交戦
黒い災い
夢の国
のこされたもの
望み
総合病院の悪夢
悪魔の贖罪
めざめ
地下鉄車両基地
王の意志
ユートピア
青い鳥
リピーター
リピーター(Instrumental)

自主制作映画としては異例の規模と完成度を誇り、その独創的な世界観と物語は、観る者に深い印象を与える作品となっている。

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