ユートピア平原

ユートピア平原（Utopia Planitia）

ユートピア平原とは、火星の北半球に位置する広大な低地帯、すなわち盆地の名称です。火星の赤道から極に向かう中間の緯度地域に広がっています。

概要

火星上に存在する数多くの盆地の中でも、ユートピア平原はその規模において最大とされており、その差し渡しは推定で約3300キロメートルにも達します。
この広大な盆地の中心は、おおよそ北緯50度、東経118度に位置しています（火星の経度体系については、特定の基準が用いられます）。ユートピア平原は、その地形に特徴的なScalloped地形、日本語では「貝状のくぼみ」と表現される凹凸が観察される代表的な地域の一つです。

このScalloped地形は、主に火星の中緯度地方、具体的には南北緯度45度から60度にかけて見られる独特な形状であり、北半球における典型例がユートピア平原で確認できます。ちなみに、火星の南半球では、Peneus地域やAmphitrites Pateraといった場所で同様の地形がよく見られます。

探査と地表の様子

ユートピア平原は、人類の火星探査史上、重要な舞台となりました。1976年9月3日、アメリカ航空宇宙局（NASA）の無人火星探査機、バイキング2号がこの平原への着陸に成功し、その地表での詳細な調査を行いました。
バイキング2号が撮影し、地球へ送られてきた画像からは、ユートピア平原の地表に数多くの岩石が露出している様子が捉えられています。これらの地表を構成する物質については、かつて水が存在した証拠である可能性が指摘されている蒸発残留岩（水が蒸発した後に残された鉱物など）でできているのではないかと考えられています。

地下の水の氷

近年の高度な探査技術によって、ユートピア平原の地下に莫大な量の水の氷が存在する可能性が明らかになっています。2016年、NASAのマーズ・リコネッサンス・オービター（MRO）に搭載されている地中レーダー装置SHARADによる観測データ分析から、Scalloped地形が見られるエリアの地下、比較的浅い層（地表から1メートルから10メートル程度の深さ）に厚い水の氷の層が存在することが強く示唆されました。
この氷層は、特に北緯39度から49度の範囲に分布しており、その厚さは場所によって80メートルから170メートルにも達すると推定されています。この氷に含まれる水の総量は膨大であり、北米最大の湖であるスペリオル湖に貯えられている水の量に匹敵すると推測されています。

フィクションにおけるユートピア平原

ユートピア平原はその名前や火星における位置から、学術的な研究対象であるだけでなく、フィクションの世界にも影響を与えています。例えば、著名なSFシリーズである『スタートレック』に登場する、火星軌道上の宇宙ステーションに設置された造船所の名称は、このユートピア平原から名付けられています。

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