ユーノー

ローマ神話の女神ユーノー：結婚と女性の守護神

ユーノーは、ローマ神話において重要な役割を担う女神です。主に結婚や出産を司り、女性の守護神としても崇拝されました。そのため、月とも関連付けられています。夫である最高神ユーピテルと共に、ローマにおける最も重要な神々の一柱であり、神々の中で女王としての地位を確立していました。

絵画や彫刻では、神聖な冠を戴き、威厳に満ちた姿で描かれることが多く、孔雀がその聖鳥とされています。その神格は、女性の気質や生命力を象徴するものであり、ギリシャ神話のヘーラーと同一視されています。

ユーノーは、様々な呼び名で知られています。英語ではJuno、フランス語ではJunonと呼ばれ、日本語でもユノ、ユノー、ジュノーなど、複数の表記があります。ユーピテル、ミネルウァと共にカピトーリウムの丘にある神殿で崇拝され、ローマの宗教における三柱一体を形成していました。

特に6月との結びつきが深く、ヨーロッパの多くの言語で6月を表す単語（Giugno、Juin、Juneなど）はユーノーに由来しています。「6月の花嫁（ジューン・ブライド）」という慣習も、6月に結婚することでユーノーの加護を得られるという信仰に基づいています。

神話におけるユーノー

神話によれば、ユーノーはサートゥルヌスの娘であり、ユーピテルとの間にウゥルカーヌスとユウェンタースをもうけました。また、花の女神フローラから魔法の花を授かり、そこから戦いの神マールスを身ごもったという逸話も存在します。

ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』では、トロイア人を憎むユーノーが、ウェヌスの息子であるアイネイアースのローマ建国を妨害しようとします。風神アイオロスに頼んでアイネイアースの船隊を沈没させようとしたり、アレークトーを操り、アイネイアースとトゥルヌスの戦争を扇動するなど、物語の中で重要な役割を果たしています。ヤーヌスの神殿の門を開放することで、戦争の開始を告げる場面も描かれています。

ユーノーの多様な側面

ユーノーは単一の神格ではなく、様々な側面を持つ多様な女神として崇拝されていました。その中でも代表的なものをいくつか挙げると、以下の通りです。

ユーノー・モネータ（Juno Moneta）： 忠告のユーノー。ガリア人の侵入をガチョウが予言したことからこの名がつきました。この神殿では後に貨幣の鋳造が行われるようになります。
ユーノー・ルーキーナ（Juno Lucina）： 出産のユーノー。「子どもを光明の中へ出す女神」とも呼ばれ、安産を祈願する女性たちから崇拝されていました。
ユーノー・レーギーナ（Juno Regina）： 女王のユーノー。ユーピテルの妻としての地位を表す称号であり、「神々の女王」とも呼ばれました。
ユーノー・フォルトゥーナ（Juno Fortuna）： 運命のユーノー。人生の運命を司る力を持つと信じられていました。
ユーノー・カプローティーナ（Juno Caprotina）： 豊穣・多産のユーノー。農業や豊作と関連付けられていました。
ユーノー・ソスピタ（Juno Sospita）： 救済・守護のユーノー。困難から人々を救済し、守護する力を持つと信じられていました。
ユーノー・ナーターリス（Juno Natalis）： 誕生日のユーノー。誕生を祝う祭祀と結びついていました。
ユーノー・ユガ（Juno Juga）： 結びのユーノー。結婚や契約などを象徴する神格です。

これらの多様な側面を通して、ユーノーはローマ社会における女性の立場、結婚、出産、そして国家の繁栄といった様々な重要な要素を象徴する存在であったと言えるでしょう。 ユーノーに関する研究は、ローマ社会の宗教観や文化を理解する上で非常に重要な手がかりとなります。

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