ユーリ・バンダジェフスキー

ユーリ・バンダジェフスキー：チェルノブイリの真実を追求した医師

ユーリ・バンダジェフスキーは、1957年ベラルーシ生まれの医師・病理解剖学者です。彼は、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故後、その影響を調査するため、被曝した人々や動物の病理解剖を行い、体内臓器に蓄積されたセシウム137などの放射性同位元素の測定を行いました。

彼の研究は、ゴメリ医科大学の初代学長として、そして病理学部長として推進されました。バンダジェフスキーは、被曝者の病理解剖を通して、放射性セシウムが人体に及ぼす影響を詳細に分析しました。特に、心臓への影響に着目し、心筋細胞へのセシウム蓄積による心筋障害や不整脈などのリスクを明らかにしました。この研究は、旧ソ連時代の放射線防護基準の見直しにも貢献しました。

バンダジェフスキーの研究は、ゴメリ医科大学で30もの博士論文、200編以上の文献を生み出しました。その成果は、ベラルーシ国内で広く報道され、注目を集めました。しかし、彼の活動は、ベラルーシ政府当局からの圧力にさらされることになります。

1999年、バンダジェフスキーは賄賂受領容疑で逮捕・拘留されました。彼の弁護士は無罪を主張しましたが、2001年には懲役8年の実刑判決を受けました。この裁判は、チェルノブイリ事故に関する彼の研究とその成果、そしてベラルーシ政府への批判への報復ではないかという国際的な批判を受けました。アムネスティ・インターナショナルを始めとする人権団体は、この判決に抗議しました。

獄中から、彼は手紙を発表し、自らの無実を訴えるとともに、ゴメリ医科大学における研究活動の中断を嘆きました。また、チェルノブイリ事故で汚染された地域に、病理学と放射線防護の研究を行う国際的な独立科学センターの設立を訴えました。

国際的な圧力を受け、バンダジェフスキーは2005年に釈放されましたが、ベラルーシからの出国を禁じられました。その後、フランスのクレルモンフェラン市に招かれ、研究と医療活動を行いました。現在、彼はウクライナで医療活動を行いながら、チェルノブイリ事故の影響に関する研究を継続し、その成果をオンラインで公開しています。

彼の研究は、セシウム137の体内分布、特に心臓への影響を詳細に明らかにしました。特に小児における影響について、深刻な警告を発しています。バンダジェフスキーは、セシウムの体内蓄積による病理学的変化を『長寿命放射性元素体内取り込み症候群（SLIR）』と命名し、その症状や影響を詳しく説明しています。

2011年の福島第一原子力発電所事故後も、バンダジェフスキーは、日本の子供たちの被曝の危険性について警告を発しました。彼は、日本の暫定規制値についても懸念を表明し、土壌へのセシウムの浸透による長期的な影響についても指摘しています。

セシウムの体内からの除去方法についても研究を行い、ペクチン製剤の有効性について発表しました。しかし、後にペクチンの効果は限定的であると修正しています。

バンダジェフスキーは、チェルノブイリ事故の影響に関する数々の著書を出版しており、その中には日本語訳も存在します。彼の研究は、放射線被曝の健康への影響を理解する上で重要な貢献となっています。彼の活動は、科学的真実の追求と、被曝者へのケアの重要性を改めて示しています。彼の経験は、将来の原発事故への備え、そして放射線防護対策の強化に役立つ貴重な教訓となるでしょう。

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