ユーリー・カリャーキン

ユーリー・フョードロヴィチ・カリャーキンは、1930年7月22日にペルミで生を受け、ソビエト連邦からロシア連邦へと続く激動の時代を生き抜いた、作家、文芸評論家、そして著名な社会活動家でした。特に、ロシア文学の巨匠フョードル・ドストエフスキーに関する深い研究で知られています。

経歴と活動の軌跡

モスクワ大学哲学部で高度な教育を受けた後、カリャーキンは作家・評論家としての道を歩み始めます。1961年にはソ連共産党に加わり、国際的な共産主義雑誌『平和と社会主義の諸問題』の編集部で活動しました。

しかし、彼のキャリアにおける大きな転換点となったのは、1968年のできごとでした。彼は文芸評論家アンドレイ・プラトーノフの追悼の場で、当時の体制であるスターリン主義を批判する講演を行いました。この反体制的な発言が問題視され、同年、モスクワ市党委員会からソ連共産党を追われることになります。これは、彼が単なる文学者にとどまらず、社会的な不正に対して声を上げる知識人であることを明確に示す出来事でした。

党追放後も、カリャーキンは言論活動を続け、社会に対して強いメッセージを発信しました。特に、「ロシアよ、お前はどうかしている！」（«Россия, ты одурела!»）や「熊手（グラブリ）を踏むのが我々の国民的スポーツだ」（«Наступать на грабли — наш национальный спорт»）といった二つの声明は広く知られ、彼の批判的な姿勢を象徴するものとなりました。

1990年代に入り、ソビエト連邦が解体へと向かう変革期には、彼は社会活動家としての側面をさらに強めます。1993年には、当時の政治状況に対する危機感から発せられた公開書簡「42人の手紙」に署名者として名を連ねました。また、ソ連人民代議員に選出され、改革派で知られる地域間代議員グループに参加し、その調整評議会のメンバーも務めるなど、民主化プロセスにおいても積極的な役割を果たしました。

文学研究と著作

ユーリー・カリャーキンの文芸評論家としての中心的なテーマは、生涯にわたるドストエフスキー研究でした。彼はドストエフスキーの作品を深く掘り下げ、当時の社会や思想との関連性の中で読み解こうと試みました。その研究成果は数多くの著作として結実しています。

代表的な著書としては、初期の『ドストエフスキーを読み直す』（1971年）、『ラスコーリニコフの自己欺瞞』（1976年）、簡潔な入門書である『ドストエフスキー。オチェールキ』（1984年）、そして大著である『ドストエフスキーと21世紀前夜』（1989年）、晩年の『ドストエフスキーとアポカリプス』（2009年）などがあります。これらの著作を通じて、彼はドストエフスキー文学が持つ現代性や普遍性を問い続けました。また、自身の思想的遍歴を綴った『信念の変遷』（2007年）や、晩年のインタビューや論考をまとめた『遅れるな！』（2012年）といった著作も刊行されています。

晩年と遺産

長期間にわたる重病との闘いの末、ユーリー・フョードロヴィチ・カリャーキンは2011年11月18日にモスクワで逝去しました。81歳でした。彼の遺体は11月22日、モスクワ郊外にあるペレジェルキノ墓地に葬られました。

その生涯において、カリャーキンは文学と社会、思想を結びつけながら、体制に対して批判的な視点を持ち続けました。ドストエフスキー研究における功績はもちろんのこと、反スターリン主義の立場を貫き、ソ連末期からロシア初期の民主化運動にも関わった知識人としての足跡は高く評価されています。その功績に対し、2000年には名誉勲章、1993年には自由ロシア擁護メダルが授与されています。彼は、思想の自由と真実を追求したロシアの知識人の一人として、その名を歴史に刻んでいます。

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