ユーロビジョン・ソング・コンテスト1990

ユーロビジョン・ソング・コンテスト1990：激動の時代を映した音楽の祭典

1990年5月5日、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国（現クロアチア）の首都ザグレブで、第35回ユーロビジョン・ソング・コンテストが開催されました。この大会は、社会主義国で開催された史上初のユーロビジョンであり、冷戦終結とヨーロッパの変革期を象徴するイベントとして、特別な意味を持っています。

社会主義国での唯一の開催

大会が開催された1990年は、東欧の民主化が急速に進んだ時期でした。ベルリンの壁崩壊（前年11月）後、ソ連崩壊（翌年）を目前に控え、社会主義体制が大きく揺らいでいました。そのような状況下で、ユーゴスラビア（当時）のザグレブが開催地となったことは、ユーロビジョンの歴史において特筆すべき出来事です。翌年、ユーゴスラビア自体も紛争によって崩壊に向かうことになるため、結果的にこの大会が唯一の社会主義国での開催となりました。

大会を彩った演出と象徴的な楽曲

オープニングでは、「音楽の街-ザグレブ」と題したビデオが上映され、クロアチアの豊かな音楽文化が紹介されました。また、この大会では初めて公式マスコット「ユーロキャット」が登場し、大会を盛り上げました。

東西冷戦の終結を背景に、各国の楽曲は新しいヨーロッパへの希望を歌い上げるものが多く見られました。ノルウェーの「ブランデンブルク門」、オーストリアの「もう壁は無くなった」、フィンランドの「自由」、ドイツの「自由に生きる」、イタリアの「1992年を一緒に」などは、その代表例と言えるでしょう。特に、イタリア代表の「1992年を一緒に」は、東側諸国のEU加盟を呼びかける内容で、大きな反響を呼びました。

波乱の舞台裏

大会は、プレゼンターの年齢に対する批判や、スペイン代表の演奏開始時の音響トラブルなど、舞台裏では様々な問題も発生しました。しかし、関係者の努力によって乗り越えられ、無事に幕を閉じることができました。

イタリアの勝利と人種差別問題

優勝は、イタリア代表トト・クトゥーニョの「1992年を一緒に」でした。イタリアにとっては、1964年以来26年ぶりの優勝となりました。2位には、フランス代表ジョエル・ウルスルの「白と黒のブルース」がランクイン。この曲は、当初「Black Lolita Blues」というタイトルでしたが、差別的な表現ではないかとの批判を受け、タイトルが変更されました。フランスの公営テレビは、一時出場を見合わせることも検討しましたが、最終的には改題しての出品となりました。この一件は、音楽を通じた人種差別問題への意識を高めるきっかけとなりました。

ユーロビジョン・ソング・コンテスト1990の意義

ユーロビジョン・ソング・コンテスト1990は、冷戦終結という歴史的な転換期に、音楽を通じてヨーロッパの結束と平和への願いを表現した大会として、記憶されるべきでしょう。また、社会主義国での開催、政治的なメッセージを込めた楽曲の数々、そして人種差別問題への提起など、様々な側面から、ユーロビジョンの歴史において重要な位置を占める大会と言えます。

もう一度検索