ユーヴドール・プライス

ユーヴェデール・プライス卿：ピクチャレスクの提唱者

1747年、裕福な家庭に生まれたユーヴェデール・プライス卿は、イートン校とオックスフォード大学クライスト・チャーチ校で教育を受けました。その後、フォックスリーの広大な土地を相続し、地主としての一生を送ることになります。若い頃はロンドンの社交界で注目を集めることもありましたが、やがてキャロライン・カーペントナーと結婚し、フォックスリーに落ち着き、領地の管理と学問に没頭するようになります。

プライス卿は、アマチュア芸術家としての顔も持ち合わせていました。彼の最も重要な業績は、1794年に発表された『ピクチャレスク論、崇高と美と比較して』です。この著書で彼は、風景美に関する独自の理論「ピクチャレスク」を提唱しました。

当時、ランドスケープデザインの世界では、ランスロット・”ケイパビリティ”・ブラウンによる自然な風景が主流でした。しかし、プライス卿は、ブラウンの自然観とは異なる視点から、ピクチャレスクな風景を論じました。彼にとってピクチャレスクとは、単なる自然美や崇高な美しさではなく、古木の茂る森や起伏のある地形、趣のある古道など、より多様な要素が織りなす、絵画的な風景を意味していました。

プライス卿のピクチャレスク理論は、対称的で整然とした美しさのみを重視する古典的な美学への反論でもありました。彼は、自然の非対称性や不規則性こそが、より魅力的で奥行きのある美しさをもたらすと主張しました。この理論は、当時の芸術や文学にも影響を与え、例えばジェーン・オースティンの小説『ノセンジャー修道院』では、プライスの考えがユーモラスに描かれています。

プライス卿は、隣人であり詩人でもあるリチャード・ペイン・ナイトと共同で、ピクチャレスクという概念を発展させました。ナイトの詩は、プライスの理論をより広く一般に知らしめる役割を果たしたと言えます。また、プライス卿は、生涯を通して多くの著名な人物と交流を深めました。例えば、政治家のチャールズ・ジェームズ・フォックスとは生涯に渡る友情を育み、詩人のウィリアム・ワーズワースとも親交があり、晩年にはエリザベス・バーネット・ブラウニングとも文通していました。彼は、自身の著作をギリシャ語とラテン語で発表するなど、学問への造詣も深く、幅広い交友関係を通じて、彼の思想はイギリス社会に大きな影響を与えたと考えられます。

1793年にはヘレフォードシャー長官に就任し、1828年には准男爵の称号を授与されるなど、社会的な地位も高く評価されました。晩年は、自身の理論を補強し、より詳細に論じるために『ピクチャレスク論』を何度も改訂し続けました。1829年に亡くなった後、彼の息子が爵位を継承しました。

プライス卿のピクチャレスク論は、単なる美的理論にとどまらず、18世紀イギリスの風景観や芸術観に多大な影響を与え、現代においてもランドスケープデザインや美術史の分野で重要な位置を占めています。彼の生涯と業績は、自然と人間の関わり方、美の多様な捉え方について、現代に生きる私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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