ヨアヒム・ラフ

はじめに

ヨーゼフ・ヨアヒム・ラフ（Joseph Joachim Raff, 1822-1882）は、19世紀ロマン派中期に活躍した、スイス生まれのドイツの作曲家、ピアニストです。フランツ・リストの助手として音楽界でのキャリアをスタートさせ、後に交響曲を中心に多作な作曲家として成功を収めました。しかし、彼の死後、その名前と作品は長く忘れ去られていましたが、近年になり再評価の動きが活発化しています。

波乱に満ちた生涯

ラフは1822年5月27日、スイスのラッヘンで誕生しました。教師として働きながら音楽活動を続け、1845年にバーゼルで聴いたリストの演奏に感銘を受け、彼の演奏旅行に同行してドイツへ渡りました。そこでメンデルスゾーンや生涯の友となるハンス・フォン・ビューローといった音楽家たちと交流を深めました。

一時スイスへ戻った後、1849年に再びドイツへ。ヴァイマルでリストの助手となり、特にオーケストレーションの分野でその才能を発揮します。1851年にはオペラ『アルフレート王』を発表しましたが、大きな成功には至りませんでした。

1856年、ラフはリストのもとを離れてヴィースバーデンへ移り、作曲家として独立した活動を開始します。この時期に生まれた『春への頌歌』（ピアノと管弦楽のための）は友人のビューローによって初演され、成功を収め、作曲家としての道を切り開きました。1859年には結婚し、同年に発表されたヴァイオリンとピアノのための小品集の中の『カヴァティーナ』が特に人気を集めます。

1860年、41歳で完成させた交響曲第1番『祖国に寄す』がウィーン楽友協会のコンクールで1位を獲得し、作曲家として確固たる地位を確立しました。これを機に、彼は全11曲の交響曲をはじめ、室内楽、協奏曲など、驚異的なペースで膨大な作品を生み出しました。彼の主要な作品の多くは、ヴィースバーデンで精力的に活動したこの時期、すなわち1857年から約20年間に集中しています。

1877年には、フランクフルトに創設されたホッホ音楽院の初代院長に就任します。教育者としても手腕を発揮し、音楽院の質の向上に貢献しましたが、この職務のため作曲活動のペースはやや鈍化しました。彼は1882年6月にフランクフルトで死去しました。

多様な作品世界と再評価

ラフは非常に多作な作曲家で、その作品は交響曲、協奏曲、室内楽、ピアノ曲、オペラなど多岐にわたります。中でも、番号付きで11曲（他に初期作品あり）を残した交響曲は彼の創作の中心です。

彼の交響曲は、しばしば文学作品や自然などから霊感を得た標題を持つことが特徴です。最も有名な作品は、ビュルガーのバラードに基づく交響曲第5番『レノーレ』です。また、交響曲第8番から第11番は『春の響き』、『夏に』、『秋の時に』、『冬』と、四季をテーマにした連作となっています。交響曲第1番『祖国に寄す』は、彼の作曲家としての成功を決定づけた記念碑的な作品です。

交響曲以外では、1873年に書かれた管楽アンサンブルのための『シンフォニエッタ』が重要です。この作品は、この分野の先駆的作品として後世の作曲家に影響を与えました。彼は他にも、ヴァイオリン、ピアノ、チェロのための協奏曲や、多数の弦楽四重奏曲を含む室内楽作品、ピアノ曲、そしてバッハやベートーヴェンの作品の優れた編曲も手がけました。

生前は人気を博したラフですが、彼の死後、音楽史の流れの中で次第に忘れられた存在となりました。しかし、近年になり、特に録音技術の進歩や研究者の努力により、彼の作品が再び注目されるようになっています。複数のレーベルから交響曲全集をはじめとする多くの作品がCD化され、これまで耳にする機会が少なかった傑作の数々が広く紹介されるようになりました。ヨーゼフ・ヨアヒム・ラフは、ロマン派音楽の豊かな多様性を示す重要な作曲家の一人として、現在、正当な再評価の過程にあります。

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