ヨアンネス・クリマコス

ヨアンネス・クリマコス：天国への階梯を指し示した聖人

ヨアンネス・クリマコス（579年 - 649年）は、7世紀に活躍したキリスト教の聖人であり、著述家、そしてシナイ山の聖カタリナ修道院の院長を務めた修道士です。正教会、非カルケドン派、カトリック教会において聖人として崇敬されており、特に正教会ではその教えが非常に重視されています。彼の名前はギリシャ語で「はしご」を意味する「クリマコス」から取られており、これは彼の代表作『天国への階梯』に由来しています。日本正教会では「階梯者イオアン」と呼ばれ、他に「シナイのヨアンネス」や「梯子のヨハネ」といった異名でも知られています。

知られざる生涯

彼の生涯の詳細については、多くの謎が残されています。579年より前に生まれ、16歳から20歳頃にかけて霊的指導者のもとで修行を積んだと伝えられています。師の死後、40年間もの間、シナイ山の修道院周辺で隠修士として厳しい修行生活を送りました。その深い信仰と聖性によって知られるようになった彼は、後に聖カタリナ修道院の院長に選ばれます。この修道院長としての期間に、彼の不朽の名作『天国への階梯』が書かれました。そして649年、同修道院で生涯を終えました。

彼の名はパレスチナとアラビア全土に広まり、東方キリスト教やヘシカズム（静観主義）の発展に大きな影響を与えたと言われています。静寂の中で神との交わりを深め、実践的な霊性への道を示した彼の教えは、現代においても多くの信者たちに深い感銘を与え続けています。

『天国への階梯』：実践的霊性への道標

『天国への階梯』は、ヨアンネス・クリマコスの代表作であり、現在も読み継がれるキリスト教の教訓書です。修道士たちの指導を目的として書かれたこの書物は、修道生活の基本的な心得から、欲望や活動、そして観想的生活における諸徳、そしてそれらの完成形である愛について論じています。神への道を示す信仰生活の手引きとして、多くの読者から高く評価されています。

全30章からなる本書の構成は、イエス・キリストの公生涯開始までの30年にちなんでいるとされています。また、「ヤコブのはしご」という聖書の比喩を用いて、天と地を繋ぐはしごをキリストの象徴として表現することで、神への到達を象徴的に示しています。各章の題名は、（1）この世の放棄、（2）欲望から超然としていること、（3）流謫、といった具合に、実践的な霊的成長の段階を示すものとなっています。最終章である第30章では、愛という究極の境地に到達するまでの過程が描かれています。

日本語訳として、『楽園の梯子』が存在し、一部の章が翻訳されています。

正教会における崇敬

正教会では、ヨアンネス・クリマコスはキリスト教的生活の模範として非常に高く評価されています。そのため、彼の記憶日は3月30日（ユリウス暦、グレゴリオ暦では4月12日）に設定されているだけでなく、大斎第四主日も「階梯者イオアンの主日」として特別な日として祝われます。彼の教えは、現代の正教会の信仰生活においても重要な指針となっています。彼の『天国への階梯』は、今日においても多くの信者によって読み継がれ、実践的な霊性への道標として役立てられています。

参考文献

『中世思想原典集成3　後期ギリシャ教父・ビザンティン思想』平凡社、1994年
ヨアンネス・クリマクス『楽園の梯子（= Scala Paradisi）』における「欲望から超然としていること」とは何か？── Gradus 2 を中心に 寺川泰弘 『中世思想研究』第53号、2011年10月20日

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