教父

教父とは？

2世紀から8世紀頃にかけて活躍し、キリスト教の正統信仰の確立に多大な貢献をした著述家たちを、私たちは「教父」と呼びます。彼らは聖なる生涯を送ったと歴史的に評価されており、その思想体系は「教父哲学」として知られています。正教会ではほぼ同義の言葉として「聖師父」が使われますが、「聖師父」は古代から近現代の正教会思想家にも適用される、より広い概念です。なお、「聖師父」という用語や概念自体は、正教会特有のものではなく、稀にカトリック教会関連の文献にも見られる点に注意が必要です。

教父の概念

多くの教父は聖人とみなされています。ただし、ネストリオスやアリウスのように異端とみなされた著述家は、たとえ同時代に生きていたとしても教父には含められません。逆に、一部の言説が否定され、後世で聖人とされなかった著述家の中でも、テルトゥリアヌスやオリゲネスのように教父として高く評価されている例もあります。

重要な点として、新約聖書の著者たちは教父には含まれません。最初の教父たちは、イエスの使徒たちから直接教えを受けた人々で、「使徒教父」または「使徒的教父」と呼ばれています。使徒教父に続く世代では、ギリシア哲学の知識を駆使してキリスト教批判者と論争し、正統信仰の確立に貢献した人々を「護教教父」と分類することもあります。また、使用言語によって「ラテン教父」と「ギリシア教父」に分類されることも多く、シリア語などの他の言語で著述した教父も存在しますが、その数は多くありません。

教父たちは東西教会分裂以前の人々であるため、教父思想とその研究は、教派を超えたキリスト教共通の遺産の研究と言えるでしょう。特に、ニカイア・コンスタンティノポリス信条（381年）成立前後の教父の著作は、現代のあらゆるキリスト教教派に共通する思想的基盤となっています。教父に関する研究を行う学問分野を教父学（聖師父学）と呼びます。

著名な教父たち

使徒教父

バルナバ
ローマのクレメンス
アンティオキアのイグナティオス
ポリュカルポス
パピアス
マテテス
ヘルマス

ギリシア教父

括弧内は日本正教会での呼称です。

ユスティノス (100年？ - 165年、ローマで殉教)
タティアノス (2世紀、『ディアテッサロン』著者)
アンティオキアのテオフィロス (2世紀、『アウトリュコスへ送る』のみ現存)
サルディスのメリトン (2世紀、小アジア西部サルディスの司教)
リヨンのエイレナイオス (リオンの致命者イリネイ、130年？ - 202年)
アレクサンドリアのクレメンス (150年？ - 216年以前)
オリゲネス (オリゲン、182年？ - 251年)
グレゴリオス・タウマトゥルゴス (奇蹟者グレゴリイ、213年？ - 270/275年、オリゲネスに師事)
エウセビオス (エウセウィ、263？ - 339年、『教会史』著者、第1ニカイア公会議出席)
アレクサンドリアのアタナシオス (アレクサンドリヤの大主教アファナシイ、298年 - 373年、第1ニカイア公会議出席)
エルサレムのキュリロス (イェルサリムの大主教キリル、313年？ - 386年、第1コンスタンティノポリス公会議出席)
ディデュモス (313年 - 398年、「盲目のディデュモス」、主著『聖霊論』)
ナジアンゾスのグレゴリオス (神学者グリゴリイ、329年？ - 389年、第1コンスタンティノポリス公会議出席)
バシレイオス (大ワシリイ、330年？ - 379年、『ヘクサエメロン』著者)
ニュッサのグレゴリオス (ニッサの主教グリゴリイ、335年？ - 394年？、第1コンスタンティノポリス公会議出席)
ヨアンネス・クリュソストモス (金口イオアン、347年？ - 407年)
ポントスのエウァグリオス (345年 - 399年、『修行論』など)
モプスエスティアのテオドロス (350年 - 428年、『教理教育講話』など)
アレクサンドリアのキュリロス (376年 - 444年、エフェソス[[公会議]]出席)
キュロスのテオドレトス (393年 - 457年？)
アンティオキアのセウェロス (465年？ - 538年)
ヨアンネス・クリマコス (階梯者イオアン、579年以前 - 649年)
証聖者マクシモス (表信者マクシモス、580年 - 662年)
ダマスコのヨアンネス (650年？ - 749年？、アラブ人キリスト者、『知識の泉』著者)

ラテン教父

ミヌキウス・フェリクス (生没年不詳、『オクタウィウス』著者)
テルトゥリアヌス (155年？ - 220年以降、カルタゴ生まれの法律家)
ヒッポリュトス (170年？ - 235年？)
キプリアヌス (？ - 258年)
ノウァティアヌス (？ - 253/260年)
ラクタンティウス (240年？ - 320年？)
ポワティエのヒラリウス (315年？ - 368年？)
ダマスス1世 (305年？ - 384年)
アンブロシウス (340年？ - 397年)
ルフィヌス (344/345年 - 411年)
ヒエロニムス (347年？ - 420年)
アウグスティヌス (ヒッポのアウグスティヌス、354年 - 430年)
ヨハネス・カッシアヌス (360年 - 435年)
レオ1世 (390年 - 461年)
ヌルシアのベネディクトゥス (480年？ - 547年)
アイオナ島のコルンバ (521年 - 597年)
グレゴリウス1世 (540年？ - 604年)
セビリアのイシドールス (560年？ - 636年)

シリア教父

タティアノス (2世紀、『ディアテッサロン』著者)
アフラハト (270年、280年 - 345年以降没、『デモンストレーション』著者)
シリアのエフレム (307年 - 373年、第1ニカイア公会議出席)
ナルサイ (399年 - 503年)
マッブーグのフィロクセノス (440年 - 523年)
サルーグのヤコブ (451年 - 521年)
エフェソスのヨアンネス (507年？ - 588年？)
ニシビスのババイ (551年 - 628年)
シリアのイサアク (ニネベのイサアク、7世紀)
エデッサのヤコブ (633年？ - 708年)

オリエンタル教父

啓蒙者グレゴリウス (257年？ - 331年？)
グルジアのニノ (296年 - 338/340年)

砂漠の師父・教母、およびコプト教父

(師父)
大アントニオス (251年？ - 356年)
大パコミオス (292年？ - 348年)
ヒラリオン (291年？ - 371年？)
エジプトのマカリオス (300年？ - 391年？)
ポイメン (340年？ - 450年？)
アルセニオス (350/354年 - 445年)
ポントスのエウァグリオス (345年 - 399年)
シナイのネイロス (？ - 430年以降)
ヨハネス・カシッアヌス (360年 - 435年)
大シェヌーテ (348年？ - 466年？)
ガザのバルサヌフィオス (？ - 540年？)
預言者ヨハネ (？ - 543年？)
ガザのドロテオス (505年？ - 565年？)
ヨアンネス・クリマコス (579年以前 - 649年)
(教母)
アレクサンドリアのシュンクレティカ (4世紀)
大メラニア (325年 - 417年)
小メラニア (383年 - 439年)
アレクサンドリアのテオドラ (5世紀)
砂漠のサラ (5世紀)

ダマスコのヨアンネス以後の聖師父

ストゥディオスのテオドロス (759年 - 826年)
新神学者シメオン (949年 - 1022年)
グレゴリオス・パラマス (1296年？ - 1359年)
ニコラオス・カバシラス (1322/1323年 - 1391年以降)
* 隠修者フェオファン主教 (1815年 - 1895年)

その他の用例

「教父」という用語は、上記の意味以外にも使われます。例えば、カトリック教会では、現職のローマ教皇を「私たちの教父」と呼ぶ慣習があり、これは「教皇」の別の訳語として用いられています。また、カトリック教会では公会議の参加者を「公会議教父」と呼ぶこともあります。聖公会では、代父母の男性を「教父」と呼びます。これらの用例は、上記の「ラテン語: Patres Ecclesiae」とは異なる概念・語源を持つ言葉です。

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