ヨシボーの犯罪

ヨシボーの犯罪

『ヨシボーの犯罪』は、つげ義春が1979年に『カスタムコミック』で発表した16ページの短編漫画です。この作品は、つげ義春の一連の「夢もの」作品群の一つとして位置づけられています。

概要

本作は、1973年5月10日に作者が見た夢が元になっています。週刊誌の海水浴場の写真に写る女性をピンセットで食べているところを女学生に見られ、発覚を恐れた主人公が証拠隠滅のためにピンセットを捨てようと自転車で見知らぬ町をさまようというストーリーです。夢の中では民芸品店だった場所が、作品では骨董品店になっているなど、細部の変更はあるものの、夢の内容が忠実に再現されています。意図的にパースを狂わせた描写が、作品に独特の不安定感を与えています。

制作背景

『ねじ式』の頃は創作意欲が旺盛だったつげ義春ですが、この作品前後の「夢もの」では、見た夢をそのまま描くことに重点を置いていました。夢の雰囲気を再現するために、あえて稚拙な絵柄に挑戦しています。ストーリー作りの苦労はないものの、思い通りの絵を描けないという新たな苦労も経験しています。

あらすじ

兄と自転車修理業を営むヨシボーは、雑誌のピンナップガールをピンセットで食べるという奇妙な行為をしていました。しかし、女学生にその現場を見られそうになり、彼は殺人の罪で15年間服役することを恐れ、逃亡を決意します。

ヨシボーはピンセットを捨てようと自転車でさまよいますが、川に捨てようとすると馬に見られたり、めっき工場で硝酸液に溶かそうとしてもどの桶に硝酸が入っているか分からなかったりと、ことごとく失敗します。やがて彼は見知らぬ宿場町に迷い込み、骨董品店を見つけたり、壁のない古民家や温泉を見つけたりします。いつしか犯罪を犯したことを忘れ、街を走り回るヨシボーは、解放感に満たされていました。

評価

権藤晋は、本作を「話の上では、もっとも過激だ」と評し、最後のほうに出てくる壁のない古民家の場面を高く評価しています。読者は、つげ義春が描く不安定な絵を見るだけで楽しむことができると述べています。

夢ものシリーズの終焉

この作品をもって、つげ義春の一連の「夢もの」シリーズは終了します。夢を題材にした本作は、つげ義春の作風の中でも特異な位置を占めており、彼の内面世界を垣間見ることができる貴重な作品と言えるでしょう。

参考文献

『つげ義春漫画術』（上巻）
『つげ義春漫画術』（下巻）
『つげ義春資料集成』
『つげ義春とぼく』
* 『つげ義春日記』

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