ヨシュア・トゥリー

U2 『ヨシュア・トゥリー』：砂漠に響く希望と葛藤の歌

『ヨシュア・トゥリー』は、アイルランドのロックバンドU2が1987年に発表したアルバムであり、彼らのキャリアにおける最大の成功作の一つです。アルバムタイトルは、アメリカ南西部の砂漠地帯に生えるユッカの木、"Joshua Tree"に由来します。

世界的な成功と評価

前作『焰』から3年、U2はバンド・エイドやライブエイドへの参加、アパルトヘイト反対のチャリティソングへの参加などを通して、徐々に評価を高めていました。『ヨシュア・トゥリー』は、そうした活動を経てリリースされ、全米チャートで9週連続1位を獲得、全世界で2,500万枚を超えるセールスを記録し、U2を世界的スターダムへと押し上げました。アメリカの『TIME』誌はU2を表紙に掲載し、"Rock's Hottest Ticket"という見出しで彼らの人気ぶりを伝えました。

音楽評論家のニール・マコーミックが指摘するように、『ヨシュア・トゥリー』以降、ビッグアルバムをリリースすることが、その後のビッグバンドの基準となりました。

レコーディングの舞台裏

レコーディングは1986年1月頃から始まり、ダブリン郊外のDanesmoate Houseに場所を移して行われました。ここでは、「With or Without You」や「I Still Haven’t Found What I’m Looking For」といった楽曲の原型が生まれています。希望の戦略ツアーへの参加による中断を挟み、8月にはDanesmoate Houseに加え、ウィンドミル・レーン・スタジオ、そしてエッジの自宅（通称メルビーチ）でもレコーディングが行われました。「Mothers of the Disappeared」や「Bullet the Blue Sky」は、このメルビーチで生まれた曲です。ブライアン・イーノの助言によりセッションは一旦打ち切られますが、年明け後にレコーディングを再開し、最終的にB面曲が完成しました。最終段階では、スティーヴ・リリーホワイトがミキシングを手伝い、彼の妻であるカースティ・マッコールが曲順を決定しました。また、このレコーディングには、フラッドがエンジニアとして初めて参加しています。

アメリカ音楽への傾倒と社会的なメッセージ

音楽面では、ブルース、カントリー、ゴスペルといったアメリカのルーツ・ミュージックからの影響が色濃く反映されています。ボノはアメリカ文学を読み漁り、ボブ・ディランやキース・リチャーズから音楽的な影響を受けました。そうした経験を通して、U2は従来のサウンドに静謐さと骨太さを加え、深みのあるサウンドを構築しました。

アルバムには、アメリカ政府の対ニカラグア政策を批判した「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」、イギリスの炭鉱労働者をモチーフにした「レッド・ヒル・マイニング・タウン」、チリの行方不明者をテーマにした「マザーズ・オブ・ザ・ディサピアード」など、社会的なメッセージを込めた楽曲も収録されています。これらの曲は、セールス面でも成功を収め、U2はグラミー賞で最優秀アルバム賞、最優秀ロック・グループ賞を獲得しました。

「ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム」、「アイ・スティル・ハヴント・ファウンド・ホワット・アイム・ルッキング・フォー」、「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」といったシングル曲は、現在でもU2の代表曲としてライブで演奏され続けています。

後世への影響

『ヨシュア・トゥリー』は、『ローリング・ストーンの選ぶオールタイム・ベストアルバム500』で27位にランクインするなど、音楽史における評価も確立しています。また、アメリカ議会図書館が将来に渡って保存すべき録音資料として登録する全米録音資料登録簿にも選ばれています。

2007年には20周年記念盤、2017年には30周年記念盤が発売され、大規模なツアーも行われました。ツアーではアルバム収録曲が曲順通りに演奏され、これまでライブで演奏されたことのなかった「レッド・ヒル・マイニング・タウン」も初めて披露されました。

『ヨシュア・トゥリー』は、音楽的な革新性、社会的なメッセージ、そして普遍的なメロディが融合した、U2の最高傑作であり、ロック史に残る重要なアルバムとして、今後も長く聴き継がれていくことでしょう。

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