ヨス・ファン・インマゼール

ヨス・ファン・インマゼール（Jos van Immerseel）は、1945年 11月9日にベルギーのアントウェルペンで生まれた音楽家です。チェンバロやフォルテピアノといった歴史的鍵盤楽器の演奏、オルガン演奏、そして指揮活動で世界的に知られています。

音楽教育と初期活動

インマゼールは、地元の王立アントウェルペン音楽院で音楽教育を受けました。ここでは、ピアノ、オルガン、チェンバロといった鍵盤楽器を専攻し、特にチェンバロでは著名なケネス・ギルバートらに師事しました。学業を終えた後、彼はアントウェルペンに自身の古楽アンサンブル「コレギウム・ムジクム」を立ち上げました。このアンサンブルを通じて、ルネサンス時代からロマン派にわたる幅広い時代の音楽に取り組み、その演奏活動の基盤を築きました。また、若き頃から数多くの国際的な音楽コンクールで優秀な成績を収め、特に即興演奏においては受賞歴もあり、早くからその才能を高く評価されていました。

演奏活動と楽器への深い造詣

インマゼールは、演奏家として多岐にわたる活動を展開しています。彼は特に初期鍵盤楽器への深い愛情を持ち、熱心なコレクターとしても知られています。演奏旅行の際には、自身の貴重なコレクションである歴史的な楽器を持ち運んで使用することもしばしばあり、その楽器本来の響きを追求する姿勢は多くの聴衆を魅了しています。ただし、必要に応じてモダンピアノを用いることもあり、特定の楽器に限定されることなく、柔軟なアプローチを取っています。

フォルテピアノ奏者としては、比較的珍しいレパートリーにも挑戦しており、たとえばクロード・ドビュッシーの独奏曲集や、セルゲイ・ラフマニノフの2台ピアノのための作品集などを録音しています。また、室内楽の分野では、日系ドイツ人ヴァイオリニストのミドリ・ザイラーと共演し、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトやフランツ・シューベルトのヴァイオリン・ソナタの演奏・録音に取り組むなど、多様なコラボレーションを行っています。

指揮者としてのアニマ・エテルナ

彼のキャリアの中でも特筆すべきは、1987年に自身が設立した古楽器オーケストラ「アニマ・エテルナ」での指揮活動です。このオーケストラと共に、彼は18世紀から19世紀にかけての作品を、当時の楽器や演奏習慣に基づいた解釈で演奏・録音することを追求しました。モーツァルトのピアノ協奏曲、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンやシューベルトの交響曲などの演奏・録音で特に高い評価を得て、古楽界における名声を確立しました。さらに、ヨハン・シュトラウス2世、ピョートル・チャイコフスキー、ニコライ・リムスキー＝コルサコフ、モーリス・ラヴェルといった、より後期の作曲家の作品にもレパートリーを広げ、古楽器による多様な表現の可能性を探求しました。

教育活動と後進の育成

演奏・指揮活動と並行して、インマゼールは精力的に教育活動にも取り組んでいます。1972年からは、彼の母校である王立アントウェルペン音楽院で教授として、通奏低音やチェンバロの指導にあたり、多くの若い音楽家を育ててきました。アントウェルペンのフレースホイス博物館アカデミーで開催される国際的なマスタークラスでも指導を行い、国内外の学生に自身の知識と経験を伝えています。また、パリ音楽院やアムステルダムのスウェーリンク音楽院といったヨーロッパの主要な音楽教育機関でも教鞭を執り、アムステルダムでは芸術監督としての役割も担いました。その他、様々な国際音楽祭の講習会でも講師として招かれるなど、音楽教育の分野でも重要な役割を果たしています。

近年の動向

長年にわたりインマゼールの活動の中心であったアニマ・エテルナですが、2024年9月16日、オーケストラは「持続的な攻撃的な行動と契約上の義務の定期的な違反」を理由として、インマゼールを指揮者のポストから解任することを発表しました。この出来事は、彼のキャリアにおける大きな転換点となりました。

ヨス・ファン・インマゼールは、鍵盤奏者、指揮者、教育者、そして楽器研究家として、古楽とその後の時代の音楽の解釈と普及に大きく貢献した音楽家と言えるでしょう。

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