ヨハンネス・プフェファーコルン

ヨハンネス・プフェファーコルン：改宗者としての生涯と反ユダヤ主義的活動

ヨハンネス・プフェファーコルン（Johannes Pfefferkorn, 1469年 - 1521年）は、15世紀から16世紀にかけて活動したドイツのカトリック神学者であり、ユダヤ教からキリスト教への改宗者です。彼は、ユダヤ教に対する攻撃と、特にタルムードの焚書を強く主張したことで知られています。また、人文主義者ヨハネス・ロイヒリンとの激しい論争は、当時の宗教的、知的対立を象徴するものとして、歴史にその名を刻んでいます。

生い立ちと改宗

プフェファーコルンは、ニュルンベルクのユダヤ人家庭に生まれ、後にケルンに移り住みました。若き日に夜盗罪で投獄されるという経験も経ています。1505年、彼は家族と共にカトリック教会の洗礼を受け、キリスト教に改宗しました。その後、ケルンのドミニコ会修道院長であるヤコブ・ファン・ホーフストラーテンの助手となり、ユダヤ教をキリスト教にとって有害であると主張するパンフレットを多数出版しました。

ユダヤ教への攻撃とタルムード焚書運動

プフェファーコルンは、1508年に発表した『ユダヤ人の鑑』の中で、ユダヤ人が高利貸しの慣習を止め、キリスト教の説教を聞くべきだと主張しました。さらに、ユダヤ人の偏見の原因はタルムードにあると非難し、タルムードの廃棄を訴えました。一方で、彼はユダヤ人への迫害を改宗を妨げる要因であると批判し、ユダヤ人がキリスト教徒の子供を殺害しているという噂を否定しました。彼は、自身がユダヤ人の友人であるとし、キリスト教への改宗はユダヤ人の幸福のためだと主張しました。しかし、彼のパンフレットには矛盾も見られ、ユダヤ人を激しく攻撃する内容も含まれていました。例えば、『盲目のユダヤ人がどのようにイースターを祝うか』や『ユダヤ人の告白』では、ユダヤ人はキリスト教徒の殺害を善行と見なし、ユダヤ人から聖書以外の書物を没収すべきであると主張しました。彼はまた、ユダヤ人の子供を親から引き離し、キリスト教徒として教育すべきだと提唱しました。

プフェファーコルンは、神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の妹クニグンデ・フォン・エスターライヒに働きかけ、ユダヤ教の書物の焚書を提案しました。その結果、1509年、マクシミリアン1世はユダヤ人に対し、反キリスト教的な書物をプフェファーコルンに差し出すよう命じ、ヘブライ語聖書以外のヘブライ語書籍の破棄を命じました。この命令によって、フランクフルト・アム・マインをはじめとする各地でヘブライ語書籍の没収が行われました。

タルムード調査委員会とロイヒリンとの論争

ユダヤ人たちは、プフェファーコルンの告発に対抗するため、マインツ大司教ウリエル・フォン・ゲンミンゲンに助けを求めました。大司教を通じて、皇帝にタルムード調査委員会を設立するよう働きかけ、1509年に委員会が設置されました。委員会には、各大学の代表や、異端審問官のヤコブ・ヴァン・フーグストラーテン、元ユダヤ教ラビのヴィクトル・フォン・カルベン、そしてヘブライ語学者のヨハネス・ロイヒリンが参加しました。

プフェファーコルンは、自らの行動を正当化するため、皇帝に献呈した著作『皇帝マクシミリアンへの賛美と栄誉』を発表しました。また、フランクフルトで再び書籍の没収を行いました。一方、ロイヒリンは、タルムードやカバラなどの書籍を擁護し、キリスト教を侮辱する書物のみを廃棄すべきだと主張しました。ロイヒリンの反論を受け、皇帝は焚書令を一時停止し、ユダヤ人に書籍を返還しました。

1511年以降、プフェファーコルンとロイヒリンは、タルムードやカバラを巡って激しい論争を繰り広げました。この論争は、国際的な問題となり、人文主義者たちはロイヒリンを支持し、パリ大学神学部はプフェファーコルンを支持しました。この論争は、ドミニコ会と人文主義者との間の対立としても捉えられました。しかし、両者とも反ユダヤ的であるという点では共通しており、ロイヒリンもまた、ユダヤ教を批判していました。また、人文主義者フッテンは、プフェファーコルンを「ユダヤ人の血を引いている」と批判し、エラスムスもプフェファーコルンを「偽善的なキリスト教徒」と非難しました。

プフェファーコルンは、ロイヒリンを攻撃する著作を発表しましたが、ロイヒリンも『眼の鏡』で反論しました。皇帝は論争を一時停止させましたが、プフェファーコルンはその後もユダヤ人を批判する著作を発表しました。ロイヒリンとの論争では、プフェファーコルンは、若い人文主義者によって書かれた『無名の人々の手紙』で批判されました。しかし、1520年、教皇レオ10世はロイヒリンを異端と断罪し、プフェファーコルンは勝利を宣言しました。

著作

プフェファーコルンは多数の著作を残しました。

『ユダヤ人の鏡』(Der Judenspiegel, 1508年)
『警告の鏡』(Der Warnungsspiegel, 年代不明)
『ユダヤ人の告白』(Die Judenbeicht, 1508年)
『イースターの書』(Das Osterbuch, 1509年)
『ユダヤ人の敵』(Der Judenfeind, 1509年)
『皇帝マクシミリアンへの賛美と栄誉』(In Lob und Eer dem Kaiser Maximilian, 1510年)
『手の鏡』(Handspiegel, 1511年)
『火の鏡』(Der Brandspiegel, 1513年)
『警鐘』(Die Sturmglocke, 1514年)
『ロイヒリンとその弟子たちに対する論争の書』(Streitbüchlein Wider Reuchlin und Seine Jünger, 1516年)
* 『不信仰者ロイヒリンに対する同情的な訴え』(Eine Mitleidige Clag Gegen den Ungläubigen Reuchlin, 1521年)

まとめ

ヨハンネス・プフェファーコルンは、その激しい反ユダヤ主義的言動と、タルムード焚書運動によって歴史に名を残しました。彼の活動は、当時の宗教的対立と社会情勢を反映しており、ユダヤ教とキリスト教の関係、そして宗教改革前夜のヨーロッパの知的状況を理解する上で重要な人物です。彼の生涯は、改宗者の複雑なアイデンティティと、宗教的信念がもたらす影響を考える上で、多くの教訓を与えてくれます。

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