ヨハン・バプティスト・ヴァンハル

ヤン・クシュチテル・ヴァニュハル

概要

ヤン・クシュチテル・ヴァニュハル（Jan Křtitel Vaňhal, 1739年5月12日 - 1813年8月20日）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて活躍したウィーン古典派の作曲家です。ボヘミア（現在のチェコ）の出身ですが、ドイツ語名であるヨハン・バプティスト・ヴァンハル（Johann Baptist Vanhal）としても広く知られています。かつてはその姓をオランダ系と解釈する説も存在しましたが、現在はボヘミア出身とされるのが一般的です。

ヴァニュハルは非常に多作な作曲家であり、その作品は生前からヨーロッパ各地はもちろん、遠くアメリカ大陸でも演奏されるなど、広い人気を博しました。彼は作曲活動のみで生計を立てることができた最初の作曲家の一人とも言われています。

生涯

ヴァニュハルは、ボヘミアのネハニツェに農民の子として誕生しました。幼少期から地方の音楽家のもとで初期の音楽教育を受け、当初は質素な生活を送っていましたが、やがて村のオルガニストや教会の楽長を務めることで生計を立てるようになります。

彼のヴァイオリン演奏を耳にしたシャフゴーチュ伯爵夫人は、その才能を見抜き、1760年に彼がウィーンへ赴き、著名な作曲家カール・ディッタース・フォン・ディッタースドルフから作曲を学ぶ機会を設けてくれました。伯爵夫人の支援はヴァニュハルが35歳を迎えるまで続き、その間に彼はイタリアなど各地を巡りながら音楽的な研鑽を深めました。

ウィーンでは音楽教師としても活動しましたが、作曲家として驚異的な成功を収めます。需要に応じる形で次々と作品を生み出し、その人気は発表後わずか数年のうちに各地に広まりました。1784年から数年間、彼はウィーンでモーツァルトが暮らした家の向かいに居を構えていたことも知られています。また、1784年には、有名な音楽愛好家ストーラスのサロンで行われたカルテット・パーティーにて、ハイドン、ディッタースドルフ、そしてモーツァルトといった当時の大家たちと共に弦楽四重奏を演奏したという有名な逸話も伝えられています。

これほどの成功と多忙を極めたにもかかわらず、ヴァニュハルは後にウィーンを離れ、比較的隠遁した生活を送りました。その理由については定かではありませんが、おそらく精神的な不調（うつ病の可能性が示唆されています）によるものと考えられています。しかし、作曲活動はその後も続け、多くの作品を後世に残しました。

作品

ヴァニュハルは生涯にわたり膨大な数の作品を残しました。その様式はウィーン古典派に属し、旋律的で聴きやすいものが多く、当時の聴衆に大変好まれました。

主な作品ジャンルと作品数は以下の通りです。

交響曲：少なくとも73曲
弦楽四重奏曲：100曲
宗教曲：95曲（ミサ曲、レクイエム、スターバト・マーテルなど）
協奏曲：ヴァイオリン、チェロ、コントラバスなど
その他：多様な編成の器楽曲、声楽曲

特に交響曲や弦楽四重奏曲は、当時の主要な出版社の手によって広く頒布され、その人気を不動のものとしました。宗教曲にも重要な作品が多く含まれます。

代表的な作品としては、以下のようなものが挙げられます。

レクイエム 変ホ長調
ミサ・ソレムニス ハ長調、変ホ長調
スターバト・マーテル ヘ短調
ボヘミアの羊飼いのミサ ト長調
交響曲 ハ長調「コミスタ」 (Bryan C11)
交響曲 ニ短調 (Bryan d1, d2)
交響曲 ト短調 (Bryan g1, g2)
コントラバス協奏曲 ニ長調 (Weinmann IIh:D1)
チェロ協奏曲 ハ長調 (Weinmann IId:C1)

その多作さと、当時の音楽界における影響力の大きさから、ヴァニュハルはウィーン古典派の主要な作曲家の一人として再評価が進められています。

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