ヨハン・メルヒオール・モルター

ヨハン・メルヒオール・モルター（Johann Melchior Molter, 1696年 2月10日 - 1765年 1月12日）は、18世紀ドイツで活躍した作曲家、宮廷楽長、そしてヴァイオリン奏者です。彼の音楽活動は、豪華で複雑な後期バロック様式から、よりシンプルで旋律的な前古典派様式へと移り変わる、音楽史上の重要な転換期にあたります。

生涯

モルターは1696年、ドイツ中部テューリンゲン州のティーフェンオルトで生を受けました。彼の父は地元の教会音楽家（カントル）であり、教師でもあったため、幼少期から家庭で基本的な音楽教育を受けました。J.S.バッハの故郷アイゼナハに近いこの地で育ったモルターは、後にアイゼナハのギムナジウムで学び、1717年秋頃にこの地を離れました。

その後、彼は南ドイツのカールスルーエにあるバーデン＝ドゥルラハ辺境伯の宮廷にヴァイオリン奏者として仕えることになります。ここで、彼はマリア・サロメ・ロールワーゲンと結婚し、二人の間には8人の子供が生まれました。

キャリア初期の重要な出来事として、1719年から1721年にかけてのイタリア留学が挙げられます。この期間、彼は作曲の研鑽を積み、当時のイタリア音楽界を代表する作曲家たち、すなわちアントニオ・ヴィヴァルディ、トマゾ・アルビノーニ、ジュゼッペ・タルティーニ、そしてアレッサンドロ・スカルラッティといった巨匠たちの影響を深く受けました。このイタリアでの学びは、彼の作曲スタイルに大きな影響を与えたと考えられています。

イタリアからの帰国後、モルターはカールスルーエの宮廷楽団の楽長に昇進し、1722年から1733年までその職を務めました。しかし、その後ザクセン＝アイゼナハ公国に招かれ、1734年にはそちらの宮廷楽団の楽長に就任します。

私生活では、1737年に最初の妻マリアを亡くしました。そして1742年頃までにマリア・クリスティーナ・ワーグナーと再婚しています。同じ1742年にはカールスルーエに戻り、再び宮廷に仕えつつ、地元のギムナジウムで教鞭をとりました。1747年からは、彼を最初に雇用した辺境伯の孫にあたるカール・フリードリヒのもとで働き続け、1765年にカールスルーエで生涯を閉じました。

作品

モルターが遺した作品は多岐にわたり、その数はクラウス・ハフナーによる作品目録（MWV）において約600曲が記録されています。彼の作品リストには、オラトリオやいくつかのカンタータといった声楽曲、170曲にも及ぶ交響曲を含むオーケストラのための作品、そして多数の協奏曲や室内楽曲が含まれています。

特に管弦楽曲と協奏曲の分野で多くの作品を残しており、その多様性は彼の時代の音楽様式の変化を反映しているとも言えます。彼の作品の中でも特筆すべきは、まだ比較的新しい楽器であったクラリネットのために書かれた6曲の協奏曲です。これらは歴史上初めて書かれたクラリネット協奏曲と考えられており、新しい楽器のレパートリー開拓における重要な一歩を示しています。

その他の主要な協奏曲としては、ヴァイオリン（6曲）、フルート（10曲）、ファゴット（3曲）、オーボエ（1曲）、チェロ（1曲）、ホルン、フルート・オーボエ・ホルンのための協奏曲、ヴィオラ（1曲）、チェンバロ、トランペット（3曲）、そして2つのトランペットのための協奏曲（5曲）などが知られています。特にトランペットのための協奏曲を多く残している点も彼の作品の特徴の一つです。

これらの作品群は、後期バロックの技法と、やがて古典派へと繋がる旋律的な書法や明快な形式が融合した、過渡期ならではの魅力を持っています。

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