トマゾ・アルビノーニ
トマゾ・ジョヴァンニ・アルビノーニ（Tomaso Giovanni Albinoni, 1671年6月8日 - 1751年1月17日）は、イタリア・ヴェネツィア共和国（当時）出身のバロック音楽の作曲家でありヴァイオリニストでした。彼は生涯においてオペラ作曲家として高く評価されていましたが、現代においては主にその器楽曲、特にオーボエ協奏曲が頻繁に演奏され、広く知られています。ただし、彼の名と結びつけられがちな「アルビノーニのアダージョ」（正確には「弦楽とオルガンのためのアダージョ ト短調」）は、1958年にレモ・ジャゾットによって発表されたものであり、アルビノーニ自身の作品ではなく、ジャゾットによる創作であるとされています。
アルビノーニの生涯に関する詳細は、彼が当時のイタリア音楽界で築いた名声の割には、驚くほど多くは伝わっていません。彼はヴェネツィアの裕福な貴族の家系に生まれました。父親のアントーニオ・アルビノーニは、紙商人であり、市内に多数の店舗を所有する一方でトランプ製造業も営んでいました。アルビノーニの音楽教育については確固たる記録はありませんが、同時代の著名な作曲家ジョヴァンニ・レグレンツィに師事した可能性が推測されています。
当初、彼は家業に携わりながら音楽活動を行っていました。1694年には、最初の作品集となる「12のトリオソナタ 作品1」を、コレッリの有力なパトロンとして知られるピエトロ・オットボーニ枢機卿（ローマ教皇アレクサンデル8世の大甥）に献呈しています。音楽家としての活動が活発化し、1700年にはマントヴァ公の宮廷ヴァイオリニストとして一時的に雇われ、自身の器楽曲集「作品2」をマントヴァ公に献呈しました。翌1701年に作曲された「12の3声のバレッタ 作品3」は非常に人気を博し、トスカーナ大公コジモ3世の嫡男フェルディナンド・デ・メディチに献呈されています。
1705年にはヴェネツィアでオペラ歌手のマルガリーテと結婚しました。聖マルコ大寺院の楽長アントニーノ・ビッフィが結婚の証人となりました。マルガリーテはアルビノーニとの間に6人の子をもうけつつ、1720年まで歌手として活躍しましたが、1721年に亡くなりました。1709年に父親が死去した後、アルビノーニは家業を弟たちに任せ、自身は音楽活動に専念するようになります。ヴェネツィアではビッフィ以外の音楽家との交流はあまり確認されていませんが、彼はヴェネツィアだけでなく、ジェノヴァ、ボローニャ、マントヴァ、ウーディネ、ピアチェンツァ、ナポリといったイタリア各地の主要都市でオペラ作曲家としてその名を馳せました。
この時期、アルビノーニは器楽曲も精力的に作曲しました。特に1705年以前に、多くのトリオ・ソナタやヴァイオリン協奏曲を手掛けています。その後も、1715年にはアムステルダムのエティエンヌ・ロジェから、初のオーボエ協奏曲を含む「5声の協奏曲 作品7」を、1721年には「6つのソナタと6つの三声の舞曲 作品8」を出版しています。1721年に家業が傾いた後、声楽学校を開設して多くの生徒を教えたとする19世紀の歴史家の記録がありますが、その開設時期や具体的な活動内容は不明です。
同時代の多くの作曲家が教会や貴族に仕えることで生計を立てていたのとは異なり、アルビノーニはそうした公的な地位に就こうとした形跡が見られません。彼は自身の豊かな財源によって、独立した立場で自由に作曲活動を行っていたと考えられています。1722年にはバイエルン選帝侯マクシミリアン2世エマヌエルに招かれ、オペラの指揮を行いました。彼の最もよく知られた器楽曲集の一つである「5声の協奏曲集 作品9」は、この年にアムステルダムのミシェル＝シャルル・ル・セーヌから出版され、バイエルン選帝侯に献呈されています。1740年にはヴェネツィアで最後のオペラ《アルタメーネ》が上演されましたが、それ以降のアルビノーニの動向はしばらく不明となります。
1742年にフランスで彼のヴァイオリン・ソナタ集が「遺作」として出版されたことから、研究者の間ではこの頃に亡くなったと推測されていました。しかし、実際にはアルビノーニは故郷ヴェネツィアで静かに暮らしていました。生地の教区記録によると、彼は1751年1月17日に風邪と糖尿病により死去しました。享年79歳と記録されていますが、これは誕生日からの計算と合わず、書き間違いである可能性が高いとされています。
アルビノーニは生涯に約50作ものオペラを作曲し、そのうち20作ほどが1723年から1740年にかけて上演されました。しかし、これらのオペラの大部分は現在失われており、わずかに数曲のアリアが現存するのみです。現代において彼の名が広く知られているのは、前述の通り、主として器楽曲、特にオーボエ協奏曲によるものです。
アルビノーニの器楽曲は、同時代のドイツの巨匠ヨハン・ゼバスティアン・バッハに大きな関心を持たれました。バッハはアルビノーニの主題に基づいて少なくとも2曲のフーガを作曲しており、また、自身の学生たちに和声法の練習としてアルビノーニのバス課題を頻繁に用いたことが知られています。
アルビノーニの主な作品には以下のようなものがあります（太字は現存する作品、または特に有名な作品）。
オペラ（約52作作曲、大部分紛失。一部アリア現存）
グリセルダ（Griselda, 1703年）
最も忠実な臣下（Il più fedel tra i vassalli, 1705年）
エンジェルベルダ（Engelberta, 1709年）
寛大な競技（Le gare generose, 1712年）
エウメーネ（Eumene, 1717年）
ラオディス（Laodice, 1724年）
アルデリンダ（Ardelinda, 1732年）
協奏曲・器楽作品
作品1：12のトリオソナタ（1694年）
作品2：6つのシンフォニアと6つの五声の協奏曲（1700年）
作品3：12の三声の室内舞曲（1701年）
作品4：ヴァイオリンと通奏低音のための6つの教会ソナタ（1704年作曲、1708年出版）
作品5：ヴァイオリンと通奏低音のための12の協奏曲（1707年）
作品6：12のヴァイオリンソナタ（1711年）
作品7：12の協奏曲集（オーボエ、2オーボエ、弦楽合奏を含む、1715年出版、1716年作曲）
作品8：6つのソナタと6つの三声の舞曲（1721年作曲、1722年出版）
作品9：12の協奏曲集（オーボエ、2オーボエ、ヴァイオリンを含む、1722年出版）
作品10：12の協奏曲集（1735年 - 1736年頃）
ヴァイオリンソナタ集 作品6（1711年頃出版）
3声のバレットとソナタ 作品8（1722年出版）
オルガンと弦楽のためのアダージョ ト短調（レモ・ジャゾットによる偽作）
宗教曲
3声のミサ曲（作曲年代不詳）
その他、48曲のカンタータや器楽曲、オラトリオなどが知られています。
アルビノーニは、特定の宮廷や教会に所属せず、独立した立場で優れた音楽を創造した作曲家として、バロック音楽史において独自の地位を占めています。特に彼の器楽曲は、後の作曲家にも影響を与える重要な業績と言えるでしょう。
生涯
アルビノーニの生涯に関する詳細は、彼が当時のイタリア音楽界で築いた名声の割には、驚くほど多くは伝わっていません。彼はヴェネツィアの裕福な貴族の家系に生まれました。父親のアントーニオ・アルビノーニは、紙商人であり、市内に多数の店舗を所有する一方でトランプ製造業も営んでいました。アルビノーニの音楽教育については確固たる記録はありませんが、同時代の著名な作曲家ジョヴァンニ・レグレンツィに師事した可能性が推測されています。
当初、彼は家業に携わりながら音楽活動を行っていました。1694年には、最初の作品集となる「12のトリオソナタ 作品1」を、コレッリの有力なパトロンとして知られるピエトロ・オットボーニ枢機卿（ローマ教皇アレクサンデル8世の大甥）に献呈しています。音楽家としての活動が活発化し、1700年にはマントヴァ公の宮廷ヴァイオリニストとして一時的に雇われ、自身の器楽曲集「作品2」をマントヴァ公に献呈しました。翌1701年に作曲された「12の3声のバレッタ 作品3」は非常に人気を博し、トスカーナ大公コジモ3世の嫡男フェルディナンド・デ・メディチに献呈されています。
1705年にはヴェネツィアでオペラ歌手のマルガリーテと結婚しました。聖マルコ大寺院の楽長アントニーノ・ビッフィが結婚の証人となりました。マルガリーテはアルビノーニとの間に6人の子をもうけつつ、1720年まで歌手として活躍しましたが、1721年に亡くなりました。1709年に父親が死去した後、アルビノーニは家業を弟たちに任せ、自身は音楽活動に専念するようになります。ヴェネツィアではビッフィ以外の音楽家との交流はあまり確認されていませんが、彼はヴェネツィアだけでなく、ジェノヴァ、ボローニャ、マントヴァ、ウーディネ、ピアチェンツァ、ナポリといったイタリア各地の主要都市でオペラ作曲家としてその名を馳せました。
この時期、アルビノーニは器楽曲も精力的に作曲しました。特に1705年以前に、多くのトリオ・ソナタやヴァイオリン協奏曲を手掛けています。その後も、1715年にはアムステルダムのエティエンヌ・ロジェから、初のオーボエ協奏曲を含む「5声の協奏曲 作品7」を、1721年には「6つのソナタと6つの三声の舞曲 作品8」を出版しています。1721年に家業が傾いた後、声楽学校を開設して多くの生徒を教えたとする19世紀の歴史家の記録がありますが、その開設時期や具体的な活動内容は不明です。
同時代の多くの作曲家が教会や貴族に仕えることで生計を立てていたのとは異なり、アルビノーニはそうした公的な地位に就こうとした形跡が見られません。彼は自身の豊かな財源によって、独立した立場で自由に作曲活動を行っていたと考えられています。1722年にはバイエルン選帝侯マクシミリアン2世エマヌエルに招かれ、オペラの指揮を行いました。彼の最もよく知られた器楽曲集の一つである「5声の協奏曲集 作品9」は、この年にアムステルダムのミシェル＝シャルル・ル・セーヌから出版され、バイエルン選帝侯に献呈されています。1740年にはヴェネツィアで最後のオペラ《アルタメーネ》が上演されましたが、それ以降のアルビノーニの動向はしばらく不明となります。
1742年にフランスで彼のヴァイオリン・ソナタ集が「遺作」として出版されたことから、研究者の間ではこの頃に亡くなったと推測されていました。しかし、実際にはアルビノーニは故郷ヴェネツィアで静かに暮らしていました。生地の教区記録によると、彼は1751年1月17日に風邪と糖尿病により死去しました。享年79歳と記録されていますが、これは誕生日からの計算と合わず、書き間違いである可能性が高いとされています。
作品と影響力
アルビノーニは生涯に約50作ものオペラを作曲し、そのうち20作ほどが1723年から1740年にかけて上演されました。しかし、これらのオペラの大部分は現在失われており、わずかに数曲のアリアが現存するのみです。現代において彼の名が広く知られているのは、前述の通り、主として器楽曲、特にオーボエ協奏曲によるものです。
アルビノーニの器楽曲は、同時代のドイツの巨匠ヨハン・ゼバスティアン・バッハに大きな関心を持たれました。バッハはアルビノーニの主題に基づいて少なくとも2曲のフーガを作曲しており、また、自身の学生たちに和声法の練習としてアルビノーニのバス課題を頻繁に用いたことが知られています。
主な作品
アルビノーニの主な作品には以下のようなものがあります（太字は現存する作品、または特に有名な作品）。
オペラ（約52作作曲、大部分紛失。一部アリア現存）
グリセルダ（Griselda, 1703年）
最も忠実な臣下（Il più fedel tra i vassalli, 1705年）
エンジェルベルダ（Engelberta, 1709年）
寛大な競技（Le gare generose, 1712年）
エウメーネ（Eumene, 1717年）
ラオディス（Laodice, 1724年）
アルデリンダ（Ardelinda, 1732年）
協奏曲・器楽作品
作品1：12のトリオソナタ（1694年）
作品2：6つのシンフォニアと6つの五声の協奏曲（1700年）
作品3：12の三声の室内舞曲（1701年）
作品4：ヴァイオリンと通奏低音のための6つの教会ソナタ（1704年作曲、1708年出版）
作品5：ヴァイオリンと通奏低音のための12の協奏曲（1707年）
作品6：12のヴァイオリンソナタ（1711年）
作品7：12の協奏曲集（オーボエ、2オーボエ、弦楽合奏を含む、1715年出版、1716年作曲）
作品8：6つのソナタと6つの三声の舞曲（1721年作曲、1722年出版）
作品9：12の協奏曲集（オーボエ、2オーボエ、ヴァイオリンを含む、1722年出版）
作品10：12の協奏曲集（1735年 - 1736年頃）
ヴァイオリンソナタ集 作品6（1711年頃出版）
3声のバレットとソナタ 作品8（1722年出版）
オルガンと弦楽のためのアダージョ ト短調（レモ・ジャゾットによる偽作）
宗教曲
3声のミサ曲（作曲年代不詳）
その他、48曲のカンタータや器楽曲、オラトリオなどが知られています。
アルビノーニは、特定の宮廷や教会に所属せず、独立した立場で優れた音楽を創造した作曲家として、バロック音楽史において独自の地位を占めています。特に彼の器楽曲は、後の作曲家にも影響を与える重要な業績と言えるでしょう。
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