ヨホイア

ヨホイア (Yohoia) は、約5億年前のカンブリア紀中期に地球上に存在した、メガケイラ類と呼ばれる絶滅した節足動物の一群に属する属です。

その化石は主に北米大陸で発見されており、特にカナダのブリティッシュコロンビア州にある有名なバージェス頁岩から初めて見つかりました。ヨホイアは、同じくカンブリア紀のメガケイラ類であるレアンコイリア (Leanchoilia) と共に、このグループの中で最初期に学術的に記載された属として、古生物学において重要な位置を占めています。

名前の由来

ヨホイアの学名 `Yohoia` は、化石が発見されたカナダのブリティッシュコロンビア州にあるヨーホー（Yoho）という地名にちなんで名付けられました。ヨーホーという言葉は、この地域の先住民族であるクリー族の言語で「驚き」を意味するとされています。ヨーホー川やヨーホー湖など、周辺にはこの名を持つ地理的な特徴が多く存在します。

体のつくり（形態）

ヨホイアの体はエビのように細長い形状をしており、発見されている種によって最大で2センチメートルから3センチメートルほどの長さになります。

頭部: 頭部は、左右が大きく下向きに広がる背甲（carapace）によって覆われています。背甲の前方には一対の眼があり、そのすぐ後方からは一対の大きな付属肢（great appendage）が前方に突き出ています。この大きな付属肢は、先端の4つの節がそれぞれ4本の鋭い爪となって噛み合う構造をしており、その縁には鋸歯状の突起が並んでいます。柄の部分の付け根には短い構造体がありますが、これが短くなった節なのか、あるいは別の組織なのかについては、研究者の間で解釈が分かれています。大きな付属肢以外の頭部にある付属肢は、3対存在し、これらは胴体の付属肢と似た形をしています。

胴部: 胴体は13の節から構成され、それぞれの節は背板（tergite）で覆われています。化石の証拠から、ヨホイアの胴体は上下に大きく曲げることができたと考えられており、広い可動域を持っていたことが示唆されます。付属肢を持つのは前方から数えて第1節から第10節までです。これらの節の背板は両縁が横に出張っており、特に第1節は顕著に短縮しています。後方の第11節から第13節は付属肢がなく、やや細い円筒形をしています。体の最後部には板状の尾節（telson）があり、その後端には大小の棘が並んでいます。

付属肢: 胴体には10対の付属肢があり、これらはほぼ同じ形をしています。ヨhoiaの胴部付属肢は二叉型と呼ばれる構造で、縁に剛毛が生えたヒレ状の外肢（exopod）と、少なくとも9つの節に分かれた歩脚状の内肢（endopod）から構成されています。

暮らしぶり（生態）

ヨホイアは、その体の構造から捕食者または腐肉食者であったと考えられています。特に、頭部の大きな付属肢は、現生のシャコ類が持つ捕脚に似ており、獲物を素早く捕らえるのに適した構造をしていました。また、胴体付属肢の外肢に見られる繊毛のような構造は、水中の酸素を取り込むための呼吸器官として機能していた可能性が指摘されています。

分類上の位置づけ

ヨホイアはメガケイラ類の中に位置づけられますが、その詳細な系統関係については複数の見解があります。一般的な説では、ハイコウカリスやレアンコイリア科と共に Cheiromorpha というグループを構成するとされています。一方で、別のメガケイラ類に近縁とする説や、メガケイラ類全体の中で基盤的な位置にあるとする見解も存在します。ヨホイア自身は、ヨホイア目およびヨホイア科の唯一の属とされています。

発見された種

ヨホイア属には、現在までに主に2つの種が知られています。

*ヨホイア・テヌイス (Yohoia tenuis): 1912年にカナダのバージェス頁岩から記載された模式種です。体長は0.6〜2cm。背甲の側面は四辺形に近く、胴体の背板は左右が尖ります。大きな付属肢は個体サイズで二形が見られます（小型個体は細長く、大型個体は頑丈）。種小名 tenuis はラテン語で「長細い」を意味します。
*ヨホイア・ユタハナ (Yohoia utahana): 2015年にアメリカのユタ州にあるスペンス頁岩から記載された種です。体長は約3cmと、Y. tenuis より大型。背甲の側面は丸みを帯び、胴体の背板は左右が尖りません。標本が少なく、詳細な構造は不明な点が多いです。種小名 utahana* は、発見地のユタ州に由来します。

ヨホイアは、カンブリア紀の初期節足動物の多様性や進化を探る上で、極めて重要な化石証拠を提供しています。

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