ヨーゼフ・コーゼマンス

ヨーゼフ・コーゼマンス（Joseph Théodore Coosemans）は、1828年3月19日にベルギーの首都ブリュッセルで生まれた風景画家です。彼は1904年9月24日にその生涯を閉じました。

コーゼマンスは幼い頃に大きな不幸に見舞われました。彼がわずか1歳の時に父親を、そして翌年には母親を相次いで亡くし、その後は叔母のもとで育てられました。ブリュッセルにあるイエズス会の学校で教育を受けた後、彼は芸術の道に進むのではなく、まずはテルビュレンで事務員として働き始めます。その後もテルビュレンの市役所職員や、デュースブルクでは公務員として職務に就きました。

彼が公務員として働いていたこれらの地域は、多くの画家たちが自然の風景を求めて訪れる場所でした。特にテルビュレン周辺には、優れた風景画家たちが集まり、「テルビュレン派」と呼ばれる芸術家コミュニティが形成されていました。このような環境に触れるうち、コーゼマンスも絵画、とりわけ風景描写に強い関心を抱くようになります。彼は風景画家のテオドール・フルモワ（Théodore Fourmois、1814年-1871年）と知り合ったことをきっかけに、本格的に風景画を描き始めました。絵画の技術は完全に独学で習得し、35歳になった1865年に初めて自身の作品を展覧会に出品しました。

1868年には、コーゼマンスはカミーユ・ヴァン・カンプをはじめとする「テルビュレン派」を代表する画家たちと共に、自由美術協会（Société Libre des Beaux-Arts）の設立メンバーとなりました。この芸術家グループは、創設当初は少人数でしたが、次第に多くの著名な美術家がその活動や展覧会に加わるようになり、ベルギー美術界において影響力を持つ存在へと成長しました。

彼はまた、アルフレッド・フェルヴェー（Alfred Verwee、1838年-1895年）やルイ・デュボワ（Louis Dubois、1830年-1880年）といった画家仲間と、フランスのノルマンディー地方を訪れ、写実的な風景描写の探求を深めました。さらに、フランスの有名な芸術家村であるバルビゾンにも短期間滞在しました。この経験は彼の画風に大きな影響を与え、バルビゾン派が重視した自然光の表現技法や、当時テルビュレン派で人気の高かったイポリット・ブーランジェのスタイルから多くの示唆を得たとされています。

1876年頃からは、彼の描く主題が変化し、ベルギー国内のリンブルフ州にあるヘンクやキンローイといった地域の、手つかずの自然や田園風景に焦点を当てるようになります。これらの地域は、後の世代の風景画家たちにも重要なインスピレーションの源となりました。

コーゼマンスの芸術家としての功績と風景画への貢献は高く評価され、1887年にはアントウェルペンの美術アカデミーにおいて風景画の教授に任命されました。彼は教育者としても熱心に後進の指導にあたりました。

晩年、コーゼマンスは健康上の試練に直面します。1893年に脳出血を発症し、右手に麻痺が残ってしまいました。しかし、彼は画家としての情熱を決して失わず、困難な状況の中でも絵を描き続けました。利き手である右手が使えなくなったため、左手を用いて制作を行ったのです。このため、彼の晩年の作品は、以前の緻密さとは異なる、より自由で力強い筆致が特徴となりました。彼は1904年に亡くなるまでアントウェルペンのアカデミーで教授職を続け、その芸術的遺産を次世代に伝えました。彼の死後、風景画教授の後任にはフランツ・クルタン（Franz Courtens、1854年-1943年）が就任しました。

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